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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第一章 狙撃手
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狙撃手

潜入の可能性のある経路は挙げればキリがないが、全長2キロ近い長さがある滑走路地域が、敵から見て都合がいいだろう。滑走路上はともかくその周辺は少なくない規模で草が生い茂っており、なおかつ海側では2011年に起きた東日本大震災の際に積まれた大量の土嚢が堤防のように伸びている。




他の建物や格納庫が密集している地域は複雑で入り組んで身を隠せる場所は多いが、重要施設であるがゆえに監視の目が多く、また平時からこの地域で訓練を行っている基地警備隊も巡回している関係上好ましくはない。




敵も我と同じく、まずは敵情を知る必要がある。そのためにも監視だけでなく、騒動を起こしてこちらの戦力を窺う威力偵察は必要だ。




幸いなことに今日は月がその年で地球に最も近づくスーパームーン、しかも68年ぶりといわれるほどまでに急接近しており、基地内の電灯の多くが消されているにも関わらず、明かりなしでメモを読めるほどに周囲は月明かりに満ちていた。




もちろんこれは敵側にも有利に働くが、監視の目が圧倒的に多い青部隊からすれば、そこまで大きな不利とはならない。何よりもこちらは敵を発見し、発見され、そして交戦することを前提に警備を行っているのだ。




イギリス製のパトロールバッグに依託していた狙撃銃をゆっくりと右に振る。マウントの上には標準装備の10×40倍のリューポルド社製の眼鏡(スコープ)ではなく、一昔前のビデオカメラのようなティッシュ箱ほどの大きさがある暗視照準眼鏡が搭載してあった。




指向先は電波塔から約200メートル先の滑走路地域だ。ここからなら滑走路地域の大半を見渡すことができる。



電波塔のすぐ前にはアクロバット飛行で有名なジェット機の格納庫があるため死角となっている場所があったが、そこには基地警備隊の歩哨二名が警戒に当たることになっている。問題はなかった。



鉄帽ヘルメットに装着される暗視眼鏡はわずかな光を増幅し、暗闇の中での視界を確保する。しかし、狙撃銃用の暗視照準眼鏡は、生き物や車両のエンジン等から発せられる熱を白く浮かび上がらせ、ビデオ画像として映し出す。射撃用のレティクルも表示されるので、そのまま射撃することも可能だ。






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