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2もしも~(紗々と河合さん編)

「転校生を紹介する。では、挨拶をしてくれ」

河合江子かわいえこです。よろしくお願いします」


 季節外れの転校生がやってきた。私の学校はそもそも外部からやってくる生徒はとても少ない。さらには3月にやってくる転校生など見たことがない。教室の前で話す転校生をクラスメイトは興味深そうに眺めている。しかし、私は彼らとは逆に転校生にはまったく興味がなかった。なぜなら。


「紗々さん!会いたかったです」


 転校生は私の幼馴染だった。そして、その転校生が私のクラスに来ることを事前に私は知っていた。だからこそ、無関心を決め込むことが出来た。



「ねえ、河合さんと倉敷さんってどういう関係なの?知り合い、だよね?」

「ピンクが好きなの?うちの学校、校則が厳しいけど怒られなかった?」

「河合さん、どうしてうちの学校に来たの?」


 休み時間、クラスメイトは河合江子の周りに集まって質問攻めにしていた。転校生というだけで目立つ。そのうえ、かなりおかしな格好をしていた。高校生だというのに髪をピンク色に染め、ネイルもピアスも首につけられたネックレスももれなくピンク色をしていた。どれだけピンクが好きなのか。ここまでくると頭がおかしい奴に見えてくる。制服はブラウスのボタンをかなり開けていて、下着が見え隠れしている。それもまたピンク色だった。スカート丈もかなり短めだ。


「紗々さんとは、幼馴染なんです。親の仕事の都合で私は引っ越ししなくてはいけなかったんですけど、またこの地に戻ることが出来たんです!」


「ピンクは私のラッキーカラーみたいなものです。ピンク色を身に着けていると、元気がもらえるから、お守りみたいになっちゃいました」


「この学校に紗々さんがいるって知って、編入してきました!」


 転校生は元気よくクラスメイトの質問に答えていく。質問に答えるのは構わないが、そこで私の名前を出すのはやめて欲しい。クラスメイトの視線が一斉に私に向けられた。


「倉敷さんが河合さんみたいな人と幼馴染なんて知らなかった」

「倉敷さんって、物静かなイメージで、河合さんとは正反対でしょ」

「でもさ、倉敷さんって、あの大鷹先輩と付き合っているって噂が」


 こそこそと私を前にして何やら話しているが、丸聞こえである。転校生の話で盛り上がっていたのに、ここでどうして先輩の名前が出てくるのか。


「ねえ、紗々さん。大鷹先輩って?」

「ああ、面倒くさい」


 全身ピンクなことで目に痛い姿をしているのは我慢できるが、私への執着はやめて欲しい。昔から私をストーカーよろしく追い回していたが、今も変わらないらしい。この幼馴染にどうやって説明したら先輩のことをわかってもらえるか。


「あのねえ、先輩とは」

「聞きたくない!この浮気者!」


 浮気者と言われる筋合いはない。そもそも、私と河合さんは付き合っていないのだ。そもそも、全身をピンクで固めて可愛らしい姿をしているが、河合江子は。


「私という男がありながら、どうして男なんて作っているの!」


 うん。ヤッパリどんなに見た目を可愛く着飾っていようが、彼は彼、だった。名前が江子なんて言う可愛らしい名前なのが紛らわしい。そして、制服もどうやって入手したのから知らないが、ブレザーにスカートという、女性用の制服を着用している。今の時代、男がスカートを履いても良いなどという学校も出ているが、私の学校はいまだに女性はスカート、男性はズボンという校則が残っている。


「男?河合さんって……」


 昔は男らしい恰好をしていた気がする。それなのにどうしてこうなってしまったのか。クラスメイトの視線が転校生に戻ったのを確認して、私は荷物をもってコッソリと教室を出た。向かう先は保健室だ。具合が悪いことにして、今日は早退しようと心に決めた。



「失礼します」

「あら、倉敷さん。どうしたの?」


「きらり先生、ちょっと、頭が痛くて……。保健室で休んでもいいですか?」


 保健室にはタイミングよく保健教諭が在室していた。勝手に保健室を使うのは気が引けるので許可を取れたのはありがたい。今の保健教諭、笛吹きらりは優しい女性で体調が悪そうにしている生徒にかなり甘い判断を下してくれる。ただし。


「確かに顔色が悪いようだね。ちょうどベッドが空いているから、好きなベッド使っていいよ」

「ありがとうございます」

「何かあったら力になるからね。私も李江りえも」

「ワカリマシタ」


「失礼します」


 ちょっと変わった先生だった。基本的には優しい先生なのだが、見た目がかなり目立っていた。女性であるのだが、常に男装をしている。男性用スーツを身に着け、その上に白衣を着ている。とはいえ、先生の女性らしさは隠されていない。そのため、女性だということは見てわかるのだが、その見た目のせいで女生徒からひそかに人気のある先生らしい。


「おや、李江。どうしてここに?今は授業中のはずだよね?」


「きらり先生、それは私のセリフです。あなたは今の時間、研修でほかの学校にいる時間でしょう?なぜ、保健室に居るのですか?」


 新たに保健室にやってきたのは、きらり先生の言葉に出て来た女性教師だった。彼女はクール美人な感じが男子生徒から人気が高い。そういえば、大鷹先輩の弟が李江先生を好きで猛アタックしていると言っていた。しかし、きらり先生も李江先生を狙っていた気がする。


「そうだったかな。そんなに睨まないでよ。倉敷さん、私のことは気にせず保健室でゆっくり休んでいきなさいね」


「まったく、あなたという人は……」


 この二人は会うたびに軽い口論をしている。はたから見たら、喧嘩するほど仲がいいと言ったところだ。いつものことなので、私は軽く頷き、手前にあったベッドにもぐりこんだ。そして、そのまま目を閉じたらすぐに眠ってしまった。

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