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結婚したくない腐女子が結婚しました(連載版)  作者: 折原さゆみ
番外編 もしも違う形で出会っていたら
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番外編 もしも違う形で出会っていたら①

「退屈だなあ」


 私は暇を持て余していた。私の名前は倉敷紗々(くらしきさしゃ)、高校三年生。身長160cm、黒髪ショートの色気ゼロの残念系女子高生だ。女子高生という青春真っ盛りの時期になぜ、こんな言葉が出るかというと。


 腐女子でコミュ障ボッチ、土日引きこもりのインドアだから。


 退屈と言っても、今の生活に不満があるわけではない。進学校と呼ばれる高校に入学して、バイトをせず、お金を気にすることなく大学受験のための勉強ができる。恵まれた環境に置かれているのはわかっている。


「このままだとやばいかなあ」


 部活は高校一年生の時に陸上部に入っていたが、二年生になる前に辞めてしまった。受験勉強に専念したいという理由だったが、実際は練習がきついのに大した成果を残せなかったからだ。それについては後悔していない。そこから私の腐女子への道が拓けたからだ。


 まさか、自分がBLボーイズラブを好きになるとは思わなかった。もう、BLを知らなかった無垢な自分には戻れない。



「おはようございます」

「お、おはよう」


 電車通学をしていると、思いがけない人物と一緒になることがある。夏休みが明けた9月。今日は朝補習がある日で、いつもより早い電車に乗っていた。


「今日は早いんですね」

「ま、まあ、今日は火曜日で朝補習がある日だからね」


 私が電車で出会ったのは、私より二つ年下の後輩だ。大鷹攻おおたかおさむという名前の高校一年生は、陸上部のエースとして学校内では有名だったらしい。身長172cm、サラサラの黒髪ショート。さぞかし女子からモテるだろうという、さわやか系イケメンだ。


私は部活を辞めてしまったが、短距離のエースとして一年生ながらに県大会に出場するほどの実力を持つらしい。さらには成績も優秀で、学年10位以内から落ちたことがないという、まさに才色兼備の男だった。


 そんな彼と私がどうして知り合うことが出来たのか。そしてどうして付き合うことになったのか。



 高校三年生のGWゴールデンウィーク。世間は休みだが、私は補習のために学校に通っていた。進学校に入学した高校生の宿命という奴だ。受験勉強という名目で学校が教室を自習室として開放していた。家で勉強ができない生徒のために開かれた自習室に、私も面倒だが通っていた。


 休日の学校だというのに、高校は賑わっていた。学校自体が休みでも、教室で勉強したい私たち三年生や部活動を行う生徒がたくさんいた。


自習室として設けられた教室には、私のほかに10人ほどの生徒が勉強をしていた。朝9時から夕方17時まで教室は開放されていて、ちょっとした休憩は各自取っていたが、昼休憩だけはしっかりと決められていた。その時間は教室を出ていく生徒も多かったが、私は母親が作ってくれたお弁当を机に広げて一人で食べていた。


 お弁当を食べ終えた私は、息抜きもかねて校内を散歩することにした。昼の休憩時間はまだ15分ほどある。校内だけでなく体育館や校庭も回ることにした。


「位置について、よーい」


 校内では吹奏楽部が練習を行っていた。音楽室は3階にあるが、上からトランペットなどの管楽器の音が聞こえた。玄関で靴を履き替えて校庭に出る。校庭では野球部や陸上部が汗を垂らしながら全力で走っていた。


 体育館にも足を運ぶ。体育館からはバレー部やバスケ部のボールをたたく音が響いてくる。こちらも汗を流しながら必死にボールを追っていた。


 歩いているうちに気分がリフレッシュされる。午後も頑張って勉強しようと意気込みながら玄関に戻る。


「すいません」

「はい」


 こんなところで誰かに声をかけられるとは思わなかった。振り返ると、そこには顔色の悪い男子生徒が立っていた。その男子生徒は私に声をかけると、そのまま床に崩れ落ちる。慌ててそばに駆け寄る。目を閉じた男性生徒の身体に触れると熱をもっているようだ。熱中症かもしれない。仕方なく私は職員室に男子生徒を運ぶことにした。


「まったく、具合が悪いのならもっと早く言いなさい」


 たまたま、保健教諭が学校に居たことが幸いだった。すぐに男子生徒は保健室に運ばれ、ベッドに寝かされ、身体に保冷剤を充てられる。


「先生、彼は」

「ああ、ありがとう。倉敷さん。軽い熱中症だから、少し休んだら大丈夫だよ。あとは僕が見ておくから、勉強に戻っていいよ」


 保健教諭がそういうのなら、私が出る幕はない。男子生徒の無事を確認して私は教室に戻った。その後は男子生徒のことが気になりすぎて、勉強に集中できなかった。




 受験生に休みはない。次の日も私は学校に足を運び、貴重な休みを受験勉強に費やした。昨日と同じように昼休憩にお弁当を食べ終わるが、昨日は男子生徒を職員室に運ぶというハプニングが起きた。昨日の今日でまた同じようなことがあるとは思えないが、今日はおとなしく教室で過ごすことにした。


「すいません」


 昼休憩は貴重な時間だ。勉強だってずっと続けられるわけがない。机に臥せって休んで居たら、教室の外からクラスメイト以外の声が聞こえた。顔を上げると、昨日助けた男子生徒が立っていた。


「倉敷先輩は、いますか?」

「倉敷は私ですけど……」


 教室には昼休憩ということもあり、私以外に2人の生徒しかいなかった。彼らは私に興味がないのか机に臥せって寝ているか、休憩時間にも関わらず参考書を読んでいた。


「昨日はありがとうございました」

「別にたいしたことじゃない」


 私たちは教室の隣にある控え室で話していた。昼休憩はもうすぐ終わりで、生徒が教室に戻ってきてしまう。せっかくの自習室を私たちの会話でうるさくしたくはない。


「家に帰るまでは耐えられると思ったんですけど」


 男子生徒は昨日の礼を言いに私のところまで来たらしい。律儀すぎるが、こんなところに来て友達などは大丈夫だろうか。そういえば、彼の名前を私は知らない。男子生徒はきっと、保健教諭に私の名前を聞いたのだろう。


「私は三年一組の倉敷紗々(くらしきさしゃ)。あなたは?」


 スリッパの色から学年は判明した。私の高校では学年ごとにスリッパの色が違っている。男子生徒はえんじ色のスリッパをはいていた。えんじ色ということは私より二つ下の一年生だ。ちなみに二年生は緑。三年生は紺色となっている。


「僕の名前は」


「大鷹君、こんなところに居た!部活が終わってすぐにいなくなったから心配したんだよ」


 男子生徒の名前を最後まで聞くことはできなかった。私たちの会話に割り込んでくる女子生徒が現れた。


「大鷹君、そちらの先輩は?」

「エエト」


「お前に関係ないだろ。すいません、僕はこれで帰ります」

「今日は駅に新しくできたパフェを一緒に食べる約束してたでしょ。私、楽しみにしていたんだよ」


突然現れた女子生徒は強引に男性生徒を立たせると、そのまま控え室を出ていった。申し訳なさそうな顔の男子生徒だったが、逆に私は彼がいなくなってほっとしていた。


(あのまま話していたら、どうなっていただろう)


 高校に入ってから、男子と話す機会がぐんと減った。クラスメイトの男子とは事務的な話はするが、個人的な内容を話した記憶はない。ということは、今話していた男子生徒は高校で初めて個人的な話をした男子となる。控え室のドアは空いていたとはいえ二人きり。


 急に胸がどきどきしてきて、顔が赤くなる。5月とはいえ、暑い日もあるのでこれはきっと外の気温のせいだ。決して、後輩の檀氏生徒と二人きりで話せたことが原因ではない。


 今日もまた、私は午後の勉強時間に集中することが出来なかった。

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