6大鷹視点
「いやいやいや、あれはないだろ」
オレはまさかの展開に驚いていた。まさか、紗々さんがあんな言葉をくれるなんて思いもしなかった。とはいえ、今は紗々さんからの言葉に喜んでいる場合ではなかった。
「またオレはやらかしてしまったのか」
そう、きっと世間の人はそれをオレのせいにはしないだろう。不可抗力ということもわかっている。それでも、オレは紗々さんの帰宅したときの様子を思い出し気分が下がる。明らかに帰宅までの間に何か大変なことが起こったのだ。玄関であんな風に倒れこむなんて普段の紗々さんならやらない行動だ。まあ、仕事が忙しいときはたまに玄関に倒れこんでいるが、今はそんな季節ではない。
『攻君が風邪とか引くと、厄介だね』
昔から言われてきた言葉だ。主にオレの親せきなどから言われている。風邪などで学校や会社を休むと、オレのあずかり知らぬところで問題が起こるそうだ。それが『厄介』らしい。
『攻君のファン、もといストーカーたちが看病しようと家に押し寄せてくるんだよね。普段は家にまで来ないのに、どうしてか攻君が弱っているときにやってくる』
オレのファンやストーカー、もしくはオレに好意を持っている人達が『看病』という名目を携えて家に押し寄せてくる。
というのが、オレの体調不良時に起こる『厄介』ごとである。そんなことがあるのを知ったのはオレが中学生の時だった。中学2年生の冬、インフルエンザが流行してオレもインフルエンザにかかって学校を休んだ。
「ごめんなさいね。先生から聞いていないかしら?攻はインフルエンザだから、今は部屋で安静にしているの。移ってしまうかもしれないから、会わせられないわ」
かかって二日ぐらいの時に、熱も下がって寝るのも飽きてきたのでリビングでテレビを見ていた。ちょうど、部活が終わって中学校の生徒たちが下校する時刻だったと思う。インターホンが鳴り、オレの母親が対応していた。さすがに病人であるため、玄関に出ることは無かったが、誰が来たのか気になってこっそりとリビングのドアの隙間から覗いてみた。
(どうして、彼女がここに!)
同じクラスの女子が玄関前で母親と話し込んでいた。クラスの学級委員長をしていた気が強そうな女子で、オレは彼女のことがあまり好きではなかった。ほかのクラスメイトが忘れ物をしても大した注意もしないのに、オレがたまに忘れ物をすると、すごい勢いで突っかかってくるのだ。
てっきり、オレのことが嫌いだと思っていたのだが、わざわざ家になんの用事だろうか。もしかして、宿題などのプリントを家まで届けてくれたのか。しかし、ありがた迷惑である。学校外でまで顔を合わせたくはない。
「少しだけでもいいんです!私も先週インフルエンザにかかっていたので、それが移ってしまったのかもしれないから!」
母親はオレに会わせたくはないのでやんわりと断っていたが、彼女は必死でオレを一目見たいと訴えている。オレがリビングでこっそりのぞいていることがばれたら大変だ。急いでリビングに戻ってソファの裏に隠れて彼女が家に帰るのを待つ。
しばらくすると、彼女はあきらめて帰ったようだ。玄関のドアが閉まる音がしてようやく一息つくことが出来た。
しかし、まだまだオレの受難は続いていく。その後もなぜか同じクラスの女子生徒、部活のマネージャー、隣のクラスや学年も違う女子生徒たちが次々とオレの家にやってきた。母親はそのたびにオレには会わせられないと断っていたが、そのうちにやけになったのか、居留守を使い始めた。
「ただいま。母さん、なんかオレの家の前に人が集まっているけど、兄ちゃんに何かあった?インフルエンザで休んでいるって伝えたら、様子を一目だけでも見たいっていわれたんだけど」
「おかえり。亨はさっさと荷物を部屋に置いてきなさい」
さすがに弟と一緒に家までやってくる女子はいなかった。弟の言葉に家の前が大変なことになっていることがうかがえた。
「攻。あなた、学校で何をしたの?」
リビングのソファの裏でうずくまっていたら、母親に声をかけられる。
「べ、別に何も悪いことはしていないよ」
「そうよねえ。攻がわるいことをしていないのはわかっているわ。ううん、やっぱりあなたのその容姿のせいかしら?」
深い溜息を吐く母親に申し訳ない気持ちになる。オレの表情に気づいた母親が慌てて慰めの言葉を口にする。
「お、おさむがわるいんじゃないわ。そう、悪いのは弱ったところにつけ込もうとする相手!でもね、おさむ、あなたにはこの状況を起こさないようにする必要があるわ」
健康でいることよ!
それからオレは体調管理にかなり気を遣うようになった。また体調不良になって家で休んでいたら、彼女たちが家にやってくる。被害がオレだけならいいが、周りに迷惑をかけてしまってはいけない。
しかし、いくら体調管理に気を付けていても体調不良になることはある。高校でも大学でも休むことはあった。そのたびに周りに迷惑をかけてしまった。社会人になってからはなかったから油断していた。
「はあ」
紗々さんにオレの厄介ごとをどう説明したらいいのか。自分の部屋に戻っていった紗々さんを眺めながら、オレは頭を抱えるのだった。




