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5私を仲間だと思っているようです

 昼休憩が、河合さんと同じになってしまった。銀行は、昼でも窓口が空いているため、私たちは交代で昼休憩をとることになっていた。そのため、全員が同じ時間に昼休憩をとることはなく、大抵は一人か二人ずつ休憩に入ることになる。


「お疲れ様です」


 私の昼休憩は早く、11時には昼休憩に入っている。窓口の他の人に先にお昼休憩をいただくため、挨拶して控室に向かう。控室を開けると、そこにはすでに先客がいて、それが河合さんだった。


「ああ、倉敷先輩だあ!」


「お疲れ様です」


 今日半日を見て、彼女とはあまりお近づきにならない方がいいと思ったので、挨拶だけ返して、さっさと昼食を食べてしまおうと、持ってきた弁当を広げる。しばらく無視して弁当を食べていると、午前中の話を蒸し返してきた。



「倉敷さんって、結婚しているんでしたよね」


「だから何だというのです。ていうか、私が結婚していようがいまいが、河合さんには関係ないでしょう」


「だって私、倉敷さんに興味がわいたんですよ。それで、先輩の旦那さんについて、つい平野さんに聞いちゃいましたあ!でも、先輩の旦那についての情報があまりなかったんですよ。だから、先輩に直接聞こうと思います!」


 てへっと笑う顔は、かわいいと言えなくもないが、私たちはすでに社会人。学生ではないのだ。かわいいとかそういう問題ではなく、その仕草はありえない。しかも、その話し方は素なのだろうか。それとも、ぶっている自分を演じているのだろうか。イライラするのでやめて欲しい。


「旦那さんとはどこで出会ったんですか?」


「旦那さんの趣味は?」


「先輩が旦那さんの好きなところは?」


 イライラがたまり、無視を決め込むことにした私は、その後の河合さんの怒涛の質問攻めをうるさいと思いつつも、答えることはしなかった。





 河合江子かわいえこという女性は、その話し方や服装見た目に反して、そこまで仕事ができないわけではなかった。最低限、教えたことに対してメモを取り、ミスをしつつも、それなりに仕事をしていた。とりあえず、仕事に対しては責任をもってやっているようだ。


 彼女のイライラする話し方は、どうやら素のようだった。どうしてそんな話し方になったのかは不明だが、男性にも女性にも同じように話しているところを見ると、本当にその話し方が素なのだとわかる。それは慣れてきたが、どうしても慣れないことがあった。


「倉敷さん、結婚式の写真見せてくださいよ」


「倉敷さん、今度一緒にご飯食べに行きませんか」


「倉敷さん、私、この前、彼氏を別れて」


 それは、私にべったりと引っ付いてくることだった。彼女と私は6歳ほど年が離れている。彼女は26歳、私は31歳になる。私より、もっと年の近い女性社員はいるのに、なぜだろうか。不思議でならなかったので、ある日、意を決して、私にまとわりつく理由を聞いてみた。



「どうして、私にばかりまとわりつくのですか?私に何か恨みでもありますか?」


「どうしてって、なんだか倉敷さんって、話しやすくて。実は私こう見えて……」


 腐女子なんです。


 ぐほっと、飲んでいたお茶を吹きだしそうになった。今は昼休憩中で、控室に私と彼女以外に人はいない。しかし、それだからと言って、何を突然カミングアウトしようとしているのか、この小娘は。


「倉敷さんも、なんだか私と同じ種類の人間かなと思って、つい勝手に嬉しくなったんですよ。ほら、あの日のこと、覚えていますか?整体で先輩が寝ぼけていた時のこと」


 勝手に同志にされてしまった私は、もちろん反論しようとしたが、その前に、彼女はあの日の整体での話を持ち出した。


「あ、あれは……」


「あの面白発言で、ピンときました。まあ、直感みたいなものですよ。私と同じだと感じたので、その女性がまさか、同じ職場で働いていたとは、もう、これは運命と呼ぶしかないでしょう!」


「いやいや、そんなこと言われても……」


 かわいい顔で、飛んでも発言をする彼女に、どう話を切り返せばいいか悩んだ。そして、思いついた言葉が。


「今の話と私の結婚に、何が関係あるの?」


 純粋な疑問だった。腐女子と結婚がどうしたらつながるのだろうか。



「ええと、私って、この見た目と話し方とかで結構、チャラいとかリア充とか言われることがあって、だけど、本当は……」


「腐女子だってこと?」


「そうなんです。ええと、もともと、少女漫画とか好きだったんですけど、従妹が貸してくれた漫画にBLそれが紛れ込んでいて」


「はまってしまったわけですか」


 はあとため息をつく。BLボーイズラブにはまるきっかけなど人それぞれだが、何というか、ベタなはまり方である。


「表紙がすでに男同士で、あれおかしいなとは思ったのですが、絵がきれいだったので、読み進めていくうちに」


 彼女の腐女子遍歴はどうでもいいのだが、彼女は私に聞かせたいらしい。


「それで、私、BLそれを読み終えて感動してしまったんです。男同士の恋愛のすばらしさを。その思いを誰かに伝えたかったのですが、貸してくれた従妹に感想を伝えて、そのときは意気投合したのですが」


 派閥が違ったのだろうか。よくあることである。一口にBLといっても、中身は千差万別。BLの中でもジャンルは多数に別れている。


とはいえ、今その話題で盛り上がる必要はない。河合さんの過去話からは、結婚となんの関係があるのか全く見えてこない。



「ええと、話がそれました。結局、彼女とはその一冊しか、分かり合うことができませんでした」


 ちらと時計を見ると、昼休憩終了まで残り5分となっていた。


「その話はまた後にしましょう。ええと、仕事終わりに時間はあるかな」


 本来の私は、仕事が終わったら即直帰、会社と家の往復のみで構成されている私の平日だが、河合さんの話に興味が湧いて、つい誘ってしまった。河合さんは最初、何を言われているのかわからなかったようで、ぽかんとしていたが、徐々に理解したのか、笑顔で頷いた。


「わかりました。時間ならあります。何せ、最近、彼氏と別れました!」


 どうやらこの子は、空気を読むということはできないらしい。


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