2腰痛といえば①~貴重な体験をすることができました~
「イタタタタタタッ」
私は今、大鷹さんに腰のマッサージをしてもらっている。先週の田植え体験に加え、週明けの月曜日に、仕事でもなぜか、書庫の整理を任されて、分厚い書類を棚の上から降ろしたり、また棚に戻したりという重労働があり、私の腰は限界を迎えていた。普段、家と仕事場しか往復していないため、運動不足がたたっているようだ。今日は水曜日で、三十路のアラサーは、身体の痛みは遅れてやってくる。
「オレは今、ラッキースケベ的なことをしているわけですが、どうしてこうも興奮しないのでしょう」
「それ、は、おお、たか、さ、んが、イタタタタタタッ」
「まったく、紗々さんは、少し運動をした方がいいですよ。普段運動をしていないから、筋肉がなさ過ぎて、身体を痛めているんだと思います」
私は自分の部屋のベッドにうつぶせになり、腰をマッサージされているため、大鷹さんの表情は見えない。しかし、こんなに色気のない声で叫んでいる私に幻滅しているのだろう。深いため息が背中越しに伝わり、心が痛くなる。とはいえ、そんな暗いことを考えていても仕方ない。大鷹さんは、私の気持ちを理解しているのかいないのか、あるネタを提供してくれた。
「でも、こんなシチュエーションは、創作だと良くありますよね。大抵は、そこから色気ある展開にもつれることが多いですけど、紗々さんと僕に限って、そんなことがあるわけないですよね」
「あってほしいんですか」
「それはもちろん。いつも言っているでしょう。僕は紗々さんが好きだと」
ぽんと、腰をたたかれて、マッサージは終了だと大鷹さんは私から離れる。私もうつぶせから立ち上がり、伸びをする。腰が痛いのは完全には治っていないが、少し楽になった気がする。
「マッサージ、ありがとうございました」
大鷹さんにお礼を告げて、私は、一つ、彼に忠告することにした。大鷹さんが私のことを好きと言うことにツッコミは入れなかった。いつの間にか、大鷹さんの好意を自然と受け入れている自分がいた。
「マッサージはありがたかったのですが、軽々しく好きという言葉を使わない方がいいと思います。言われる人の気持ちを考えたことがあるんですか?恥ずかしいです」
「おや、恥ずかしがってくれるということは、僕のことを意識しているということでしょう。いいことです」
真顔で私に言葉を返してくる大鷹さんに、顔が赤くなってしまう。このままでは、顔がゆでダコになってしまうので、大鷹さんが提供してくれたネタについて考え、つい質問してしまった。
「マッサージからの愛の行為……。まあ、BLでもよくある展開ですね。まさか、私が大鷹さんにマッサージをしてもらう日が来るとは思いませんでした。ずいぶん手馴れていましたけど、元カノたちにもやってあげたことがあるんですか?」
失言に気付いてしまったと思うのは、いつも口に出してから。はっと気づいて口をつぐむが、大鷹さんはすでに私の失言に慣れてしまったようで、苦笑いで答えてくれた。
「やりませんよ。うまいのは、昔、千沙さんによくやらされたからだと思います」
なるほど、千沙さんなら、喜んで甥でもこき使いそうだ。
「でも、僕は所詮素人なので、このまま痛みが続くようなら、整体にいって、専門家にマッサージをしてもらった方がいいかもしれません」
大鷹さんの助言に従い、私は明日、近所の整体に行くことにした。




