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1いきなりの家族イベント➁~私たちに子供はいません~

 土曜日当日、天気は雲一つない快晴だった。初夏というにはまだ早いが、日差しがじりじりと肌に焼き付いてきて、参加したことを後悔することになった。5月の初めとは思えない気候だった。


「暑い……。インドア派の私にこの暑さと日差しは身に堪えるわ。大鷹さん、本当に妹のためにありがとうございます」


「礼には及びません。確かに暑いですけど、ほら、真夏と違って、風が気持ちいいですよ」


「みれい、たうえ楽しみ!」


 私たちは、田植えイベントが行われる県外にやってきた。イベントに参加することに決まってから、いろいろ話し合い、交通費や食費などの経費は、妹が後でくれることになったのは、当然のことだ。妹が住んでいるのは、私たちが住んでいる地域から車で一時間くらいの場所にあり、そこに美鈴ちゃんを迎えに行き、そのまま会場に向かった。


 田植えイベントは、子供も大人も一緒になって楽しむものとなっていた。田植えの苗を担当者からもらい、割り当てられた場所に一つ一つ植えていく。泥の中に足や手を入れるため、汚れてもいい恰好での参加が義務付けられていた。美鈴ちゃんは、ピンクの半そでに紺色の短パンをはき、頭には大きな麦わら帽子をかぶっていた。


 彼女は、一生懸命に泥の中に苗を植え付けていた。その様子はほほえましく、思わずほっこりとしてしまった。



「あのう、こういう体験ベントには、よく来られるんですか?」


「いえ、今回が初めてですけど」


「そうなんですか。私も初めてで。よかったら、連絡先を交換しませんか?」


 しかし、そんなほっこりとした気分は長くは続かなかった。大鷹さんが体験イベントに参加しているママさんたちに捕まっていた。ママさんたちは、親子で田植えを楽しむという趣旨を理解していないのか、田んぼの外でのんきに世間話に花を咲かせていた。服装も、汚れていい恰好と言っているのに、初夏らしく、白いカッターシャツに淡いベージュのスカート、パンプスを履いている人や、高級ブランドのジャージに身を包む人たちの集団であった。田植えをしているのは、子供とその父親が多かった。


 私は当然、参加するものばかりだと思っていたので、泥まみれになりながら、美鈴ちゃんと一緒に田植えをしていて、泥があちこちに付着して、とても人前に出られる格好ではなかった。灰色のジャージ上下につばの大きな黒い帽子、長靴に手袋、そして首には手拭いを巻いて、汗だく姿のままでは、大鷹さんの前に出るのは恥ずかしい。


 たまたま、大鷹さんは配られた苗を植え終えて、追加の苗があるかどうか確認するために田んぼの外に出て、彼女たちの餌食となってしまった。大鷹さんも私と同じで泥の中で田植えをしていて、泥が身体に付着しているのに、イケメン度は下がっていなかった。黒のジャージ上下に、美鈴ちゃんと同じく麦わら帽子をかぶり、足下は長靴という格好でも、大鷹さんの存在は、私には輝いて見えた。



「こうやって見ると、大鷹さんって、何を着ていても似合っていますね。しかも、他のママさんたちからの視線がすごいわ」


「ささおばさん、おさむおにいちゃん、だいじょうぶかな?」


 私が大鷹さんに向ける視線が気になったのか、美鈴ちゃんが私に声をかけてきた。ていうか、どうして私はおばさんで、大鷹さんはお兄さんなのだろうか。妹の教育を問いただす必要がある。


「大丈夫だと思うよ。たぶん」


 見たところ、大鷹さんに大きな変化はない。さらっと彼女たちの攻撃をかわしていた。私はもう少し、彼らの様子をうかがうことにした。



「連絡先はちょっと。妻が拗ねてしまいますので」


「奥さんがいらっしゃるんですね。あなたみたいな人が旦那さんなんて羨ましい。でも、今はその奥さんがいませんね」


「妻は、子供と一緒に田植えを楽しんでいますよ。あなた方も田植えを楽しんだらいかがですか。普段体験したことのないことができて、楽しいですよ」


「いえ、私たちは見ているだけで充分です。それより、もう少し、私たちとお話しませんか。ここで会ったのもなにかの縁ですし」


「結構です。私も、妻と子供と一緒に田植えを楽しみたいので。あなた方みたいなのは、僕の好みではないので。失礼します」


 ママたちに拒否の言葉を告げて、大鷹さんは私たちの元にやってきた。手には、追加でもらった苗を持っていた。


「おさむおにいちゃん、かっこいいねえ。みれいがけっこんしてあげてもいいよ」


「みれいちゃん!」


「ごめんね。ぼくは、紗々さんのことが好きで結婚したから、美鈴ちゃんをお嫁さんにはできないよ」


「ふうん」


 私が声を上げるが、何か言う前に、大鷹さんがやんわりと美鈴ちゃんに断りの言葉を述べていた。それに対しての美鈴ちゃんの反応は薄かった。


「では、もう少し、田植えを頑張りましょうか」


「うん」


 私を置き去りにして、二人はまるで本物の親子のように田植えを楽しんでいた。



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