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結婚したくない腐女子が結婚しました(連載版)  作者: 折原さゆみ
番外編 バレンタイン~大鷹視点~
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番外編~恋人に会えないけれど、今は我慢するしかない~

恋人同士の会えない辛さは、経験したことがないのでわかりませんが、気持ちはなんとなくわかったつもりで書いてみました。

「自粛自粛って、最近、本当に嫌になりますね」


「確かに。でも、世の中大変な事態になっていますからね。今は我慢するしかないから、仕方ないです」


 私と大鷹さんの仕事は、休業要請になってはいないので、仕事は続けている。私は銀行勤めのため、毎日マスクをしっかりとして仕事に励んでいる。大鷹さんはテレワークを始め、家にいることが多くなったが、たまに会社にも出勤している。


「こうなると、世の中の恋人たちが可哀想になりますね」


「え!」


 大鷹さんの言葉が火種となって、私たちは喧嘩となってしまった。





「驚くことですか?普通、恋人同士が自粛で会えなくなるって、結構、心に響きますよね」


「そういうものですか?私、今まで恋人ができたためしがないのでわかりません。そもそも、会いたい人がいないので、世の中のリア充の気持ちは微塵も理解できません!」


 私がはっきりと大鷹さんに率直な意見を述べると、大鷹さんにため息をつかれてしまった。


「はあ。わかっていると思いますが、その発言、自虐ネタとしても、今後、言わない方がいいと思いますよ。それに、リア充の気持ちはわからなくても、この事態をあなたの好きなBLボーイズラブの登場人物に当てはめて想像すれば、簡単に理解できるでしょう?」


「想像……」


 大鷹さんの言われた通りに、今のこの状況を私の好きな(ボーイズラブ)で当てはめてみる。





 例えば、社会人同士で付き合っている男性同士。彼らは恋人同士だが、同棲までには至っていない。会社も違うので、会えるのは週末のみ。週末に愛を深め合っている。それが自粛となったら……。


おさむさん、僕、あなたに会いたくて会いたくてたまらないです。いつまで会えないのかわからないと思うと、胸が張り裂けそうです」


「オレも同じだよ、倉敷くらしき。でも、今は世界中が外出を自粛している。我慢しているのは、オレ達だけじゃない。今は耐えるんだ」


 そんな会話を思い浮かべながら、さらなる展開を妄想する。



「でもお前、オレと会えなくてやばいかもな。いつも週末は、ドロドロにたまっているし、それにもう、オレのものがなけりゃ、自分でイクこともできないだろ?」


「そ、そんなことないし、オレだって我慢ぐらいできる」


「そうか、じゃあ、会えない代わりにこんなのはどうだ?やったことがないだろ。オレはやってみたかったんだが、お前が恥ずかしがると思って、やめておいたアレだ」


「アレ……」


「電話を使ってするんだよ」


「で、電話で!」


「そう、テレフォンせ」


「最後まで言うな!そ、そんな恥ずかしいこと、誰がやるものか!」


 そう言いながらも、我慢ができない倉敷の身体はすでに、攻の声によって反応を始めてしまっていた。まだ、会えなくなってから一週間しか経っていない。外出制限が始まって一週間しか経っていないのに、このざまだ。


「声が上ずっているぞ。大丈夫。お前だけじゃない。オレもお前と同じ気持ちだ。会えなくて寂しいよ。倉敷。だから」


 だから、疑似的にでも、お互いの声でしよう


 攻の色気を含んだ声に逆らうことができず、結局、スマホから聞こえる攻の声に、自分の穴と前をいじりながら、欲望を出してしまうのだった。





「これはこれでうますぎる……。あああ!よだれが」


 じゅるりと、よだれを垂らしてしまった。自分の妄想でこんなにも興奮してしまった。自粛は嫌だが、これはこれで創作のネタに使えるかもしれない。


 自粛が騒がれていてもいなくても、万年土日引きこもりの私には、自粛と言われても、あまりピンと来ていない。それでも、出てはいけませんと、自ら出ないというのでは、なんとなく気分が違う。そのため、土日はなんとなく気分が下がっていたところに、突如降ってわいたBLボーイズラブネタ。使わない手はない。創作は自由であるはずだ。




「紗々さん、あなた、たくましいですね。それで、恋人同士の会えない苦痛はわかりましたか?」


 大鷹さんの視線が痛いほど私に突き刺さる。しかし、私はBLボーイズラブの登場人物に今の状況を当てはめることによって、理解してしまった。彼らの痛いほどの気持ちを。


「わかりました!会えない辛さをテレホンせ」


「やめなさい。そんな破廉恥な言葉を口にするのは」


「すでに成人しているおばさんに言うセリフでもないと思います。私が思いっきり腐っていること、大鷹さんはすでに知っていますよね。今更過ぎですよ」


「腐っているって……。とにかく、自粛は辛いということです。そこはわかってくださいね」


「別にリア充の気持ちなんて、微塵も理解したくありません。二次元には興味はあるけど、三次元に興味がないことも知っていると思います」




「そうではなくて、あああもう」


 珍しく、大鷹さんは頭を抱えていた。私にとっては、リア充の三次元の奴らには微塵も興味がない。それの何がいけないというのだろうか。大鷹さんの反応がまったくもって理解不能な私はおそるおそる、質問する。


「リア充の恋人どもの気持ちを理解することに、何の意味があるのでしょうか?」


「意味はないかもしれませんが、もし、この状況が僕たちだったらと考えたら、寂しいな、辛いなと思ってしまったので、紗々さんも同じ気持ちにならないかと期待して……。いや、今のはなしで」


「辛い……。大鷹さんに会えないのがつらい、ですか?」




 今度は、自分自身で想像してみる。妄想にはならない。あくまで想像だ。


「私と大鷹さんが付き合い始めて、世の中に緊急事態宣言が出て、外出自粛が叫ばれるようになって……」


 私と大鷹さんは会えなくなる。それがどれだけのものか。


「ううん、わかりません。だって、今の世の中、スマホも普及しているし、メールもSNSも電話もしたい放題ですよ」


 会えなくても何も問題はないと思います!


 すぐに結論が出て、宣言してしまった。そもそも、大鷹さんと結婚できたことは奇跡のようなことだ。付き合っているときは、まさか結婚までたどり着けるとは思ってもいなかった。ただでさえ、土日引きこもりの私なので、会えなくなっても問題はないはずだ。




「紗々さん、一週間くらい、絶交しましょう。僕は紗々さんと話をしません。僕からも話しかけませんし、紗々さんからの言葉も受け付けません。無視することにします」


 私の言葉に、大鷹さんが低い声で、よくわからないことを言いだした。大鷹さんが怒っているときに出る黒いオーラが背中に見えている。


 こうして、恋人同士の気持ちを理解できない私は、本当に一週間、大鷹さんと口を利くことを許されなかった。


どうか、リア充の恋人同士の皆さま、今は自粛の時です。会うのは我慢してください。

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