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結婚したくない腐女子が結婚しました(連載版)  作者: 折原さゆみ
番外編 バレンタイン~大鷹視点~
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8私は素晴らしい夫を手に入れました~手放すことはできるのでしょうか~

 私は、バレンタインなどのイベントとは無縁の人生を歩んできた。二次元では大層重要なイベントであるバレンタインも、現実の私にとってはただのくそイベントである。


 それが今覆されようとしていた。私は大鷹さんと結婚はしたが、それでもバレンタインが特別なイベントになるとは思ってもいなかった。それなのに。



「お、大鷹さんから手作りお菓子をもらってしまった。」


 そう、本来なら私から大鷹さんにあげるべきものをなんと、本人からもらってしまったのだ。これは由々しき事態である。さらには、それ以外にも、バレンタイン当日にアルコール入りの高級チョコをくれたのだ。






「うう、頭がガンガンする。でも、今日は金曜日、仕事に行かなくては……。」


 昨日のことは正直、あまり思い出したくはない。いっそのこと、アルコール入りのチョコのせいにして、記憶を飛ばしてしまったということにしておこうか。実際、チョコを食べた後の記憶はあいまいだ。


バレンタインの次の日の朝、頭の痛みを抱えながら、リビングに向かうと、大鷹さんが朝食の準備をしていた。昨日のフォンデュたちの残骸は残っていなかった。もしや、片づけてくれたのだろうか。


「おはようございます。紗々さん。」


「お、おはようございます。大鷹さん。」


 さて、ここで重要な問題だが、大鷹さんは昨日のことをどのように解釈しているのだろうか。正直、あきられていないか不安だったが、聞かずにはいられない。それに、私はいつの間にか、自分の部屋で寝ていたのだ。酔っぱらった私を介抱してくれたのは、大鷹さんしか考えられない。



「大鷹さん、昨日のことなんですが……。」


「ああ、昨日の、ことですか。まあ、月並みなことを言わせてもらいますが、紗々さんは外でお酒を飲まない方がいいと思いますよ。」


 ああ、やはり、大鷹さんに迷惑をかけてしまったのだろうか。それはまずい。かわいい色気ある妻の酔っぱらった姿には萌えるが、いかんせん、私みたいな女の酔っぱらった姿は見せられるものではない。



「ええと、その、迷惑かけたのは謝ります。すいません。」


「まったくですよ。もっと危機感を持って生活してくださいね。」


 謝ってはみたものの、大鷹さんに怒っている様子は見られない。なんて寛大な夫だろうか。私ももっと精進しなければならないと思った。



「のんびりしている暇はなさそうですよ。」


 大鷹さんの言葉にハッと壁の時計を見ると、確かにのんびりと話している余裕はなさそうだ。急いで朝食を食べて、化粧をして着替え、玄関に向かう。


「では、いってきます。」


 大鷹さんが先に家を出て、私も慌てて家を出た。また、いつも通りの日常が始まるのだった。









「男のオレからのチョコ、受け取ってくれると嬉しい。ああ、でも、男のオレからもらうのなんて気持ち悪いよな。」


「そんなことはない。恋人からもらうことより嬉しいことはない。お返しをしなくちゃいけないな。何が欲しい。」


「ええと。」


 顔を赤くして答える彼の表情は酒に酔っているのかのようだ。彼は普段なら絶対に口にしないことをつぶやいた。


「お、お前が欲しい。」






「意外と普通の展開でしたね。」


「いや、勝手に人の小説を読まないでください。」


「いや、だってネタ集めと称して三連休、実家にこもっていたにしては、王道というかひねりがないというか……。」


 仕事では、昨日のバレンタインはどうだったかといろいろ聞かれたが、無視を貫いた。言えるわけがない。大鷹さんとチョコプレイもどきをしたくてチョコフォンデュを用意したこと。アレに見立てて、わざわざチョコフォンデュも用意してしまったことなど恥ずかしくて口に出せない。さらには、アルコール入りチョコを食べて酔っぱらって最後の方は記憶がないことも、だ。


 ちなみに、仕事場では男性社員にチョコをあげる習慣はないようだったので、チョコは準備はしなかった。





 私は、今帰宅して、夕食を食べて自分の寝室にいるのだが、なぜか大鷹さんも部屋にいた。そして、私の書いたBL小説を真剣に読んで、感想を述べていたところだ。


「いや、いろいろネタはあったのですが、どうにも文章にすることができなくて。それに……。」


「それに何ですか。」


「それに………。」


 実家に帰り、ネタは集まっていた。それこそ、私のペットのグリムと触れ合うと、いいネタは次々と浮かんでくる。それでも、それを文章に書き起こさなかったのには理由があった。



「大鷹さんのせいですよ。」


 ぼそっとつぶやいた声を大方さんは目ざとく拾ってきた。


「僕が何ですか。」


「いえ、この際、はっきり言いますけど、私はバレンタイン初心者なんです。大鷹さんがやらかしてくれたので、それが強烈すぎて頭から離れなくなってしまったんです。」


 そう、大鷹さんが私のバレンタインネタを見事頭からふっとばしてくれたのだ。はた迷惑にもほどがある。だったらと、大鷹さんとのバレンタインをネタにしようとしたが、できなかった。



「そ、それで、だったらと、大鷹さんとのバレンタインをネタにしようとしたのですが……。」


 こうなったらやけくそだ。すべて大鷹さんのせいにしてやる。一気に私は結論を述べてやった。


「大鷹さんとのバレンタインを、私たちだけのものにしたかったんです。誰かに発信するのはもったいない気がして……。」



 最初はネタにしようと思った。しかし、思いとどまった。大鷹さんとのバレンタインは私のものだ。たとえ、私と大鷹さんがモデルの小説でも、渡したくはなかった。






「独占欲が出てしまったのかもしれません。」



「独占欲ですか。」


 しばらく、互いに無言だった。自分で言った言葉だが、改めて考えると、この発言はアウトだ。やばい、これはやばすぎる失言だ。



「紗々さんは僕を独占したいということですか。」


 大鷹さんにはっきり言われると、恥ずかしすぎる。否定の言葉を考えているうちに大鷹さんが嬉しそうな笑顔になった。



「そうですか。紗々さんが僕に……。」


「断じて違います。これは、ええと……。」



「ありがとうございます。僕も紗々さんを独占したいと思っていますから、お互い様です。これからも仲良くしていきましょうね。」


 有無を言わせない迫力ある笑顔に私は、素直にハイ、と頷くしかなかった。




 また一つ、大鷹さんとの思い出が増えた。そして、それと同時に大鷹さんを手放したくない感情が増したのだった。

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