3他人に意見を聞きましょう~大鷹の周りの男性~
「それで、バレンタインについての意見を聞きたいから、オレ達を集めたということか。」
はあ、とあきれを含んだため息を吐いたのは、オレの弟、享 (きょう)だ。俺は今、迷惑なことと承知しつつも、亨の家にお邪魔していた。幸い、今日は三連休初日。亨の嫁は一日、友達の家に行くといって外出している。
集まっていたのは、オレ、亨、いとこのきらりの旦那の大輔さん、同じくいとこの守の4人だ。先日の紗々さんのバレンタイン話を聞いて、他人の意見を聞きたくなったのだ。ただし、オレは昔からもてたので、会社や親しい友人に聞くことはためらわれた。話を聞こうとしても、これだからモテ男と一蹴されてしまいそうだ。
「おさむ君って、紗々さんの影響でおかしくなりつつあるよね。別に悪いことではないけど。」
「おもしろくていいんじゃね。それで、具体的に何を聞きたいんだ。」
ここに集まった人間は、オレの人間性をよく理解している。バレンタインについての意見を聞きたいといっても、断られなかった。嫌な顔をされたが、最終的に集まってくれた。当初はオレの家で集まって話そうということになったが、紗々さんが居ることを思い出して急きょ変更せざるを得なかった。おそらく、この三連休もどこにも行かずに家に引きこもっているだろうことは明白。自分の妻ながら、休日の引きこもりぶりに毎度驚かされる。
「ええと、まず、このイベントは、日本では主に女性が好きな異性にチョコをプレゼントすることがメインだが、これについての意見を聞きたい。」
「何を言い出すのかと思ったけど、そんなことかよ。そんなの決まっているだろう。それは男女の互いの愛をたしか、め。」
「リア充のリア充による胸糞悪いイベント。」
弟の享は意外にも、ロマンあふれる乙女な回答をよこしたが、それを遮って、簡潔に言い表したのは、意外にも守だった。バレンタインに恨みでもあるのだろうか。
「オレも守に同意だな。オレなんか、きらりにまともにチョコをもらった記憶がない。いや、あいつから手作りを期待しちゃあいけない。あいつの料理は壊滅的だった。」
「僕なんて、いわくつきのやばいチョコしかもらったことがない。さらには千沙さんにチョコを強要されて、なぜか男の僕がチョコを母親に渡す始末。」
「いや、でも、守もクラスの女子からチョコをもらったことはあるんだろう。それなら、守自身もリア充なんじゃないだろうか。」
「いやいや、チョコをもらった奴が必ずしもリア充とは限らないからね。そういうおさむ君こそ、自分がリア充か聞かれたら、どう答える。ああ、答えなくていいよ。今はどう考えてもリア充しているようにしか見えないから。のろけなんて聞きたくない。」
一人一人の意見を聞いたところで、次の質問をする。
「もう一つ、オレからの質問だ。」
別に女子からのチョコをもらうことについて意見が聞きたかったわけではない。そんなことを聞いても意味がない。どうせ、あげたい人はあげるし、勝手にすればいいのだ。問題は男性の考え方である。
「いや、オレの意見は無視されているがな。」
ぼそっと言った享の言葉は無視して、オレは話し続けた。
「日本では女性からもらうのがバレンタインの醍醐味だが、男性の方からはどうだろうか。チョコをもらうだけという男性についての意見はあるか。」
「それ、どういう意味だよ。バレンタインは女性のイベント。男性はもらう。そのお返しにオレ達男性は、一か月後のホワイトデーにお返しをする。それでいいんじゃないのか。」
守が至極まともな回答を述べた。それこそ、世間が植え付けたバレンタインの常識だ。しかし、オレはそこに疑問を持った。
「それだと、オレ達男性は受け身すぎだと思う。せっかくのこういうイベントなんだから、もっとこう………。」
そう、もっとこう、男性が主体的に動いてもいいと思うのだ。男女平等が叫ばれている世の中、バレンタインも例外ではない。そもそも、世界的には女性が男性にチョコという風習自体が日本独自なのだ。
しかし、この場合、オレ達男性はどうしたらいいだろうか。言葉に詰まってしまう。ううんと悩んでいると、助け舟のように大輔さんが言葉を紡ぐ。
「確かに意中の女性が、料理が壊滅だとつまらん。いっそ、男性の方からチョコでもあげるか。なんて、な……。」
「それだ。そうしよう。いいアイデアだ。よし、そうと決まればさっそく準備の方を。」
「いやいや、そんな面倒なことしなくても……」
「ぶー、ぶー。」
亨が文句を言っているが、その声は、自分自身のスマホで掻き消された。急いで電話に出ていた亨の表情が曇りだす。いらいらしたオーラが身体からあふれ出す。
「おまえ、何を言って……。」
「はあ、そんなこと許すわけ………。」
「なんかやばそうだけど、大丈夫。きょう君。」
心配そうに声をかける守にオレも同じ気持ちだ。それに加えて、こいつにはオレに迷惑をかけた前例があるので、そうならないようにしようという下心もあった。
「いや、兄貴。いいぞ。オレもそのアイデアに乗ってやる。今に見てろよ。李江。お前を驚かすようなうまい菓子を作ってやる。」
なぜか突然、菓子作りに意欲を出した。オレとしては、それはそれで構わないが、どういう心境の変化だろうか。いや、聞くだけ無駄だ。理由は言葉の端々から見てとれる。
「そうと決まれば、言いだしっぺのオレも手伝うしかないか。オレもきらりにいいところ見せて、さらにオレに惚れさせるまでだ。」
「仕方ないね。僕もどうせ、今年も千沙さんに作らなくちゃいけないから、手伝うよ。」
「よし、では、今年のバレンタイン、オレ達のすごさを見せつけるぞ。」
「おー。」
ここにバレンタインに意中の女性にチョコを贈ろうという男性4人のチームが結成された。




