5初出勤~思いがけない来客再来と結末~
のんびりと1月3日を過ごした私は、次の日から仕事である。今年の年始は7日から仕事が始まる会社が多い中、4日から出勤はおっくうになるが、給料をもらうためには仕方がない。
正月明けの銀行にはたくさんのお客様が詰めかける。丁寧にかつ迅速に窓口でお客様の対応をしていた。
「倉敷さんって、銀行で働いていたんだね。」
確かに私は地元で就職をしたが、今まで知り合いに会ったことは数えるほどしかないのだが、クリスマスに引き続きまた、知り合いが来てしまった。
「ご用件は何でしょうか。」
「今度、中学のクラス会をしようと思って。連絡は見たよね。断るなんてもったいないなあ。」
「ご用件がないのなら、お帰り願えますか。次のお客様が控えているので。」
「ええ。いいじゃん。久しぶりに同級生と再会したんだから。」
こんなに面倒な人だっただろうか。改めて竹内君の顔を見る。そして、彼のことを思い出す。そうだ。私は竹内君が生理的に無理だった。今も、見るだけで鳥肌が立ってきた。
「何見つめているの。オレに惚れたとか。いいよ。付き合ってやっても。」
そういうところだ。自分がかっこいいと疑っておらず、誰もかれもが自分に惚れると思い込んでいる。とんだチャラ男だった。私はそんな奴が大嫌いだ。それに、かっこよさで言ったら、大鷹さんの方が格段に上だ。月とすっぽん並みに違っている。天と地ほどの差だ。
「お断りします。それに、私、結婚していますから。」
竹内君は驚いていた。その顔を見るのは二度目だ。初詣の日も同じ顔をしていた。そんなに意外なことだろうか。
「そ、そうなんだ。もしかして、初詣の日に一緒に居た男が……。」
「そこまででーす。私のかわいいささ、さんに迷惑をかける男は、私がお仕置きしちゃうぞ。」
「ほどほどにしてくださいね。」
ずるずると、竹内君は突然現れたきらりさんに首根っこを掴まれて、強制的に銀行から退場していった。
「倉敷さんって、美男美女の知り合いが多いのね。」
「はあ。」
隣の窓口の平野さんがこっそりと耳元で話しかけてきたが、あいまいな返事しかできなかった。
竹内君はその後、きらりさんにこてんばんにやられたようだ。ようだというのは、後日、私の家に遊びに来て、どうなったか丁寧に教えてくれたのだ。
「あの男はどうも、結婚していたらしくて、奥さんが妊娠していたみたい。それなのに女遊びはやめられなくて、その相手にちょうどささ、さんを見つけたというわけ。」
「やっぱりチャラ男の性格は結婚しても治らないんですね。」
「知っていたんだ。それで、奴の中学の話を聞いたんだけど、彼、学年の女子全員と付き合うことを目標にしていたけど、あと一人を残して卒業したんだってさ。誰だと思う?」
面白そうに聞くきらりさんにどう答えようかと思っていると、大鷹さんがちょうど帰宅してきた。玄関のかぎが開く音が聞こえた。
「その女性は、二次元に興味がなかったんでしょうね。きっと。」
大鷹さんを出迎えると、にっこりとほほ笑まれた。
「ああ、紗々さんに迎えられると、一日の疲れが吹っ飛ぶ気がします。」
「いや、大げさでしょう。」
「そんなことはありませんよ。欲を言うと、ただいまのキスでもしてくれるとさらにうれしいですけど。」
「大鷹さん、だんだんキャラがぶれてきてますよね。」
「甘々だねえ。まったく、私がいることを忘れてないかな。」
そういえば、きらりさんが居たのだった。しかし、そんなことを気にする大鷹さんではなく、靴を脱ぐと、私に抱き着いて、耳元で「ただいま」とささやく。
「なっ。きらりさんもいます。」
大鷹さんを引き離そうとするも、思いのほか力強くて、振りほどくことができなくて、しばらく、私は大鷹さんの腕の中にいたのだった。
ということで、竹内君がその後どうなったかということを少しだけ。銀行を出た二人は近くのカフェに入ったそうだ。竹内君はきらりさんと話しているところをたまたま、奥さんに見られてしまった。きらりさんは男装をしていたけれど、それでも女の勘は騙されなかったようで、修羅場になったらしい。
それを面白がって、ついでとばかりにきらりさんは自分の旦那を呼び寄せた。そして始まる4人による地獄絵図。さらには、竹内君にとっては運がなかったのだろう。その場に大鷹家の個性豊かな面々が集まってきたそうだ。
千沙さんに守君、李江さんに弟の享さんも集まってきたとなればカオス状態必須。なぜか大鷹家の人々は私のことをすごいかわいがってくれる。かわいがっている女性を口説いたというのだから……。
「あれは面白かったねえ。」
アハハと思い出し笑いをしているが、想像しただけで、竹内君は嫌いでもご愁傷さまという言葉をかけてやりたくなる。
「あんな男はそれくらいでいいんです。」
「そうそう、マジで面白かったのは、おさむ君だよ。あの場におさむ君もいたんだよ。」
私のあずかり知らぬところで、いったい彼らは何をしているのか。
「一言言ってやっただけですよ。紗々さんは僕の妻だということを。」
「まあ、事実だけどね。それで、いろいろあって、彼と彼女はその場を立ち去ったみたいだけど、どうしたんだろうねえ。」
「ブーブー。」
私のスマホがメッセージを告げる。話を妨げるように振動するので、確認すると、タイミングよく私の情報をばらした同級生からだった。
『倉敷さんって、やくざとでも付き合っているの。なんか、竹内君が倉敷さんを敵に回すなよって連絡が入って。それから……。』
いろいろ書かれていた。やくざではないけれど、敵に回すとやばいのは確かなので、肯定も否定もしないでおく。どうやら、その後、二人は離婚が確定したそうだ。
「クラス会は急きょキャンセルだそうです。竹内君が幹事だったからでしょうか。」
竹内君がどうなろうと私には関係ないことだ。連絡をしてきた彼女には悪いが、私は返事をせず、彼女をブロックした。それから、必要のない知り合いの連絡先や、SNSの高校や大学のクラスのグループを退会した。中途半端に連絡先を登録しておくから、面倒事が起きるのだ。
コミュ障ボッチが持つ、大事な連絡先だが、これはもう私には必要ない。今回のような面倒事を巻き起こす可能性を秘めている。それに、私の学生時代に、連絡を取りたい人間は一人もいない。後生大事に連絡先を持っていなくてもいいだろう。
こうして、私は連絡先の大掃除を決行した。もともと連絡先は少なかったが、さらに減ることとなった。
本気で老人や子供が使うような、登録先が家族と後一件くらいの簡単携帯でも大丈夫なようなスマホの中身となった。
私の正月はこうして過ぎていった。いつもは静かに家族と過ごす正月だったが、今年は刺激的な年の幕開けとなったのだった。




