2喧嘩の理由②~新しい扉が開きそうです~
弟さんの夫婦喧嘩による騒動が一段落して、いよいよクリスマスを週明けに控えた金曜日。私は、目の前のお客に頭を悩ませていた。
「お義姉さん、少し相談したいことがあって。」
今日も今日で、しっかりと仕事に励んでいた私の前に現れたのは、見知らぬ女性だった。なぜ、私は初対面の女性にお義姉さんと呼ばれているのだろうか。全く持って謎である。
「昨日、李江から話を聞いたんだ。ああ、りえっていうのは、私の幼馴染なんだけど。」
その女性は、ショートカットが似合うイケメンだった。下手をすると男性にしか見えないが、女性特有の胸囲がそれをさせなかった。とりあえず、ここは銀行であり、お金を扱う場所である。人生相談所ではないのでお引き取り願いたい。
「ええと、ここは銀行ですが、お客様のご用件は何でしょうか。出金ですか、入金ですか。それとも定期口座の開設ですか。」
今の言葉は無視して、本当の要件をうかがうことにする。すると、女性はムッとしような顔で、再度同じことを主張した。
「だから、お義姉さんに相談というか、聞いて欲しいことがあるんだけど。」
「その李江さんというのは、もしかして、大鷹李江さんで間違いないでしょうか。その話はプライベートになりますので、業務時間である今はお答えできません。」
「やっぱりそうだよね。名前は大鷹ではないんだね。でも、ここの銀行で、いかにも色気がなさそうな、どんくさそうな女性ということだったから、すぐにわかったよ。」
いったい、誰情報だろうか。私の説明に間違いはないのだが、もっと言葉の言い方があると思う。
「とりあえず、銀行の業務内容外のことでの相談は受け付けかねますので、お引き取りください。次のお客様が控えていますので。」
そう、今は年末でいろいろ忙しいのだ。今年も急に寒くなって、ご老人が亡くなる件数が後を絶たない。その後の相続についての業務も急増しているのだ。さらには定期のキャンペーンも始まり、業務は山ほどあるのだ。それなのに、わけのわからない女性の対応をしている暇はない。
「それなら、ささ、さんでいいのか。仕事が終わるのは何時だ。業務時間外ならいいんだろう。その時間にまたここに来る。」
イケメンの容姿で、これまたイケメンに似合う、ハスキーな声が私の耳に届く。これが私でなくても、惚れてしまうくらいの色気だ。ただし、私は腐っても腐女子。この程度のシチュエーションで萌えるほど安くできてはいない。
安くはできていないのだが、ついほだされてしまった。
「17時30分が定時ですが、年末で忙しいので残業があるかもしれませんので、約束はできません。」
ついうっかり、仕事の終わる時間を教えてしまった。これがキモいおじさんだったら教えていない。ストーカー被害を警察に出している案件だ。イケメンは(女性でも可)、何をしても許されるのだから性質が悪い。
「ささ、さんって、案外ちょろい人だね。でも、サンキュー。それくらいにまた顔を出すから逃げるなよ。」
嬉しそうな顔で、女性は去っていった。ちょろいとは失礼である。ただ、事実だとは思うので、反論はできなかった。
面倒な女性に捕まったものである。
さて、謎の女性、おそらくは弟さんの奥さんの幼馴染であろう女性と約束をしてしまった。どうしたらいいだろうか。
「ううん。」
帰りが憂鬱だった。知らず知らずのうちにため息が声に出ていたようだ。一緒に昼休憩をしていた安藤さんや平野さんが心配そうに私を見ているのがわかった。
「大丈夫、倉敷さん。」
「ええ、なんだか新しい扉が開きそうで悩んでいたんです。」
またついうっかり本音が漏れてしまった。最近、疲れているのだろうか。心の声が言葉に出てしまうことが多すぎる。私の謎の発言に、頭にはてなマークが出ている2人を見て、さらにため息が出た。それ以上、2人が私に話しかけてくることはなかった。
私は、自分の言葉を反芻していた。そうだ、あの女性のせいで新しい扉が開きかけるところだった。
新しい扉とは「百合」。どちらかというと、私は百合ものにはあまり興味がなかった。男性同士がBLなら、女性同士はGLというわけだ。百合ともいうが、その分野に手を出したことはなかった。
まったく興味がないわけではない。アニメがあったらその情報はチェックするし、視聴はしないが、ネタバレくらいはチェックする。ただし、萌えは感じない。それはなぜか。
「一つになれない。」
ただ、その一言に尽きる。これはあくまで私の偏見であるが、女性には突っ込むべき突起物がないのだ。だからこそ、物理的に一つになることはできないと思うのだ。性行為にしても、一体感がないような気がするのだ。
どうしてもそれが気になってしまうので、萌えない。BLと同じように子供ができないとか世間の目とかいろいろな葛藤は萌えるのだが、その一点が台無しにしている。これはあくまで私の偏見であるので、百合好きに好かれることはないだろう。むしろ敵に回すくらいの暴言であると理解している。
そんなどうでもいいことを考えていたが、ふと疑問が頭に浮かぶ。 はて、弟さんの幼馴染という女性が私に相談したいこととは何だろうか。
もしや、幼馴染の女性は、実は弟さんの女性が好きだった。そして、再会してもやはりその思いが消えることはなかった。
だからこそ、お義姉さんの私に彼女との仲を取り持って欲しいという相談か。それは無理な話だ。そもそも、私は誰かに相談をもらったことがない。的確なアドバイスができるとも思えないし、この件に関しては荷が重すぎる。
もし、そんな相談なら、即無理だと断ってやる。心に誓った私だった。しかし、その決意は無意味に終わることとなるのだった。それ以上の展開が私には待ち受けていた。




