2喧嘩の理由①~よくある展開でした~
弟夫婦の喧嘩の理由を聞くと同時に、私はいつまで実家に戻っていればいいのか聞いてみる必要がある。まあ、二人きりにしているので、兄×弟になっていれば、私の帰る家はなくなるのだが、そうなったらなったで仕方のないことだ。
その場合、私は自宅に居場所がなくなるが、それよりも弟の奥さんも被害を被るだろう。そちらの方がダメージが大きいので、私なんかが傷つくのはおかしなことだ。
もし、兄×弟が成立したとなれば、すっぱりと大鷹さんのことはあきらめよう。近親相姦、さらには男同士、果てはどちらも既婚者。たくさんの試練が二人には待ち受けている。それを乗り越えてこそ、本当の愛が待っているのだ。
想像すると、これはこれでありだなと思う自分がいた。絶賛腐女子脳な私は今日も健在だった。
年末で仕事が忙しい時期だが、珍しく残業がなかった私は定時で仕事を終えた。今日も実家に戻るかもしれないと、実家に連絡を入れておく。
いったん大鷹さんと私が住むマンションに戻り、玄関のカギを開けて中に入ると、部屋の中は意外にも静かだった。そろそろと私は靴を脱いでリビングにむかう。
「ただいま戻ったのですが、私はこの家に居てもいいでしょうか。」
小声で話しけると、しっかりと返答があった。
「紗々さん。」
私の声は聞こえていたらしく、大鷹さんが返事をしてくれた。
大鷹さんと弟さんはリビングのテーブルに向かい合って座っていた。何やら深刻そうな顔をしているが、兄×弟はうまくいかなかったのだろうか。
「聞いてください。享のやつ、話を聞いたら、ただのつまらない夫婦喧嘩でしたよ。まったく、世話の焼ける弟だ。」
大鷹さんはぷりぷりと怒っていた。昨日と違い、怒り方が可愛らしいので、本気で怒ってはいないようだ。
「義姉さん。迷惑かけてすいませんでした。兄貴に話を聞いてもらったら、頭の中が整理できました。一度、嫁と話をしてみます。」
弟さんも昨日とは違い、落ち着いた様子が見て取れる。2人にしたことで、兄弟水入らずでしっかりと話ができたのだろう。いい仕事をしたものだ。
「では、俺はこれで帰ります。」
私と入れ替わるように、弟さんは家から出ていった。昨日と今日の2日しか経っていないが、なんだか怒涛の展開である。これは、大鷹さんから詳しく話を聞く必要がある。
「………。」
無意識のうちに大鷹さんを見つめていたらしい。大鷹さんが苦笑していた。
「わかっていますよ。喧嘩の理由が聞きたいのでしょう。その前に、夕食を食べてしまいましょう。」
「いえ、ひとつ、疑問がわきました。」
どうでもいいことなのだが、聞いておきたいことができた。
「大鷹さんは仕事で忙しくないのですか。」
「それは、今すべき質問ですかね。まあ、確かに年末は忙しいですが、弟がいるのでといって、少しだけ早く帰らせてもらいました。」
では、夕食にしましょう。そう言って、この話題を無理やり終わらせて夕食を食べるのだった。ちなみに今日の夕食はカレーライスで、私は実家と自分の家のカレーの違いをかみしめておいしくいただくのだった。ちなみに、家のカレーは甘めだが、大鷹さんのカレーは辛めの味付けだった。私はどちらも好みなので問題はなかった。
夕食を食べて一息ついて、大鷹さんが今回の弟さんの家出の理由を話してくれた。
「そもそも、弟がいけないんですよ。昔から人の話を聞かないので、今回も……。」
弟さんと奥さんは大学時代に出会い、付き合い始めたそうだ。互いに就職をして数年後結婚に至ったらしい。その際には、おめでた婚だったらしいが、それでも2人の仲は悪くはなかった。
先日、弟さんに子供が生まれたと聞いていたが、おめでた婚だったとは知らなかった。私は弟さんの結婚式には参加はしていない。そもそも、大鷹さんと出会う前に結婚式を挙げていたので、参加していないのは当たり前である。
仲が良かった2人はクリスマスに新婚旅行の計画を立てた。海外に行くことに決めたようで、2人ともとても楽しみにしていた。それが壊れたのは、先日のこと。奥さんが幼馴染と一緒にご飯を食べたことがきっかけだ。
「幼馴染の存在は、弟の方も知っていました。しかし、その幼馴染と奥さんの関係までは知らなったようです。」
奥さんは専業主婦になり、昼間は時間が空いている。幼馴染から久しぶりに会おうという連絡を受けた彼女は、自分の子を母親に預けて出かけていった。それ自体は別に悪いことではない。弟も育児の合間の娯楽だと認めていた。
その幼馴染が問題だった。
「いまいち、僕には理解できないのですが、彼女はいわゆる「バイ」らしくて、男女どちらでもいけるらしかったんですよ。」
なんと。大鷹さんの口からそんな言葉が出てくるとは予想外だった。「バイ」という言葉は、BLをたしなんでいると、よく出てくると言葉であるが、日常生活で使われることはあまりないと思っていた。
「バイセクシャル」つまり、男女両方に性的魅力を感じる人々のことである。身近にそんな人がいるとは驚きだった。
「さらに悪いことに、彼女は男装が趣味らしくて、奥さんが一緒にご飯を食べた写真を弟に送ったらしくて、それが争いの原因となったみたいです。」
大鷹さんは話を続ける。いろいろ衝撃的過ぎて、なかなか頭に入ってこないが、これは創作によくある展開であるので、その後の展開は容易に想像できた。
「それで、弟さんは男装していた幼馴染の彼女と奥さんが仲良く写真に写っているのを見て、浮気ではないかと疑って、それが今回の喧嘩の理由というわけですか。」
「よくわかりましたね。」
大鷹さんは自分が話そうと思っていたことをズバリ私に言い当てられて、困惑していた。別に大したことではない。BLでも他の作品でも、男装や女装で浮気を疑われる展開はよくあることだ。ただ、それが現実に会ったというだけの話だ。
写真の中の幼馴染は男性にしか見えないが、奥さんは一緒に映っている人物を幼馴染と主張している。それを信じるにしても、幼馴染の性癖を弟は知っていたから、浮気を疑ったのだろう。
「それで、大鷹さんはなんといって、奥さんとの話し合いを勧めたのですか。」
「それが、話を聞くだけで、特に何もアドバイスをしていません。話し終えた弟は、それだけで冷静になれたのか、すぐに帰っていきました。紗々さんが見た通りです。」
なんてあっけない展開だろうか。こう、もっと面白い展開を期待していたのに拍子抜けである。
「じゃあ、兄×弟は実現しなかったということですか。」
実現していたら、それはそれで大変な面倒事が起こるのが目に見えているので、ないに越したことはない。それ以上に、大鷹さんが誰かのものにならず、私のもとにいるという事実に安心している私がいた。
毎度のことながら、大鷹さんと別れたい、別れさせたい自分と、それに反対する自分がいるのがたまらなく不快だった。
「まったく、大鷹さんには振り回されっぱなしです。」
ぼそっとつぶやく言葉は、例のごとく大鷹さんに拾われてしまった。はっと気づいて大鷹さんを見ると、何とも言えない表情をした大鷹さんがいた。
「今回は弟のせいですが、振り回しているのは、紗々さんの方だと思います。」
「そうなると、お互いさまということですね。そもそも、そんな私と結婚した時点で大鷹さんの未来は振り回されています。それが面倒なら……。」
離婚しますか、とは聞けなかった。これは禁句であるので、いい加減、言うのを躊躇するよう私も学習したのだ。
「面倒ではありません。とても面白い毎日を過ごしているので、それは構いません。」
私の最後の言葉についてはきっと大鷹さんも何を言いたいのか理解していたのだろう。それでも面倒ではないと言い、その後の言葉に言及はしなかった。
「まあ、大鷹さんがそういうのなら、いいですけど。それにしても、大鷹さんは何をしても妄想が膨らむので、しばらくはネタに困らなそうです。」
つい、軽口をたたいてしまった。そう、離婚しない理由を思いついた。私は現在、BL小説を執筆中だが、そのネタを大鷹さんは提供してくれる。それでいいではないか。
「ネタです。ネタを提供してくれる存在が大鷹さんなのです。」
大事なことなので、二回言ってやった。
「そうですか。まあ、紗々さんがそれで離婚をしないのなら、いつまでも提供できるように努力していきたいのですが、暴走はやめてくれると助かります。しばらくと言わずにずっとネタを提供してあげますよ。」
ずっとです、大鷹さんはその部分を強調していた。まあ、今回はそれに乗っておいてやろうと、私は上から目線な態度で頷いたのだった。




