5電話します
「また、河合江子ですか」
「ハイ、毎度毎度、断れなくてすみません」
「いえ、紗々さんが謝ることではありません。しかし、紗々さんの幼馴染の現恋人が僕を紹介して欲しいと」
「おかしな話ですよね?当間とラブラブなら、他人の旦那なんかに興味ないですよね?」
「確かにそうですね」
夕食時、さっそく今日の昼休憩中にあったことを大鷹さんに話す。大鷹さんには毎度のことながら、迷惑をかけている。そして、その原因の大半は河合さんの余計な一言だ。
「会うのは別に構いませんけど、紗々さんは大丈夫ですか?」
「私、ですか?」
「ハイ。僕が言うのは何ですけど、僕が行くことで、状況がさらにややこしくなる可能性があります」
味噌汁を飲みながら、大鷹さんは嫌そうな顔をする。今日の夕食は塩鮭と味噌汁だ。寒い日の味噌汁は身体が温まって非常に良い。
それにしても、イケメンだと良いことばかりだと思われがちだが、面倒ごとも引き起こしやすいらしい。大鷹さんと結婚して、初めてイケメンの大変さを知った。
「大丈夫じゃないですが、河合さんの言葉にはなかなかNOと言えなくて」
「僕から、はっきり言ってやりましょうか。いっそのこと、仕事以外で話しかけるなとも言ってや」
「そこまで言わなくて結構です」
いいことを思いついたかのように、大鷹さんは机に置かれたスマホを手に取り、河合さんに電話しようとする。慌てて止めるが、どうして止められるのかわからないのか、大鷹さんは首をかしげる。
「でも、河合江子のせいで、毎回、大変な目に遭っているのは紗々さんでしょう?僕もほとほと嫌気がさしているので、ここら辺でビシッと言ってやらないと」
「そうですけど……」
そうなのだが、別に嫌なことばかりではない。河合さんと居ると、確かに面倒ごとが多いが、それなりに楽しいこともある。友達がまったくいなかった私と、仕事以外でも会ってくれる唯一の人間だ。大鷹さんの一言でその友達を失うのはもったいない。
「何か勘違いしているようですが、友達として河合江子を認識しているのなら、なおさら、キチンと嫌なことは嫌と言うべきです。なあなあな関係は友人とは呼べません」
「はあ」
「とりあえず、紗々さんに免じて、仕事以外で話すなとまでは言いません」
どうやら、電話をかけることは決定事項らしい。食事中だというのに、大鷹さんは河合さんに電話をかけ始めた。河合さんに対してやけに攻撃的である。もしかして。
「河合さんにばかり構って、ヤキモチ焼いてます?」
「僕が、河合江子に?ありえません」
私の言葉に驚いたように言葉を返す大鷹さん。しかし、ムキになるところが怪しい。とても可愛らしい反応だ。とはいえ、同性同士でどうにかなることもないだろう。百合的展開があるかもしれないと大鷹さんは危惧しているようだが、私と河合さんに限ってはそんなことはない。
「ああ、もしもし、河合江子さんの携帯でよろしいでしょうか?紗々さんの夫の大鷹攻と申します」
『ずいぶんと他人行儀ですね?確かに河合江子の携帯で合っていますよ。紗々先輩がお世話になってます』
「お世話されているのはあなたの方でしょう?」
『そちらこそ、先輩にお世話されているのではないですか?』
「今回の件ですが、予定がありますので」
河合さんに電話がつながったようだ。律儀にも大鷹さんは彼女との会話をスピーカーをオンにして私にも聞かせてくれた。通話開始早々、バチバチと火花が飛びそうな会話である。聞いている私はどういった気分でいればいいのか。
そもそも、お世話するだのされるだのは形式的な挨拶でしかない。普通は軽く流すところなのに、どうして二人ともそこでバトルになるのか。しかも、どちらも私にお世話されることになっている。私は二人の保護者ではない。
『誰からの電話ですかあ?』
「り、梨々花さん?」
『あれえ、その声、倉敷さんですかあ?ということはあ』
『そう、今電話かかってきたのが、先輩の愛しの旦那様』
『声までイケボなんですねえ』
今日の昼に話していたばかりなのに、すでに河合さんと梨々花さんは一緒に夕食を取っているようだ。コミュ力が高い二人がそろうと、何事もとんとん拍子にことが運ぶらしい。
「河合さんと梨々花さんがいるっていうことは、今からビデオ通話にしたら、実際に大鷹さんを紹介しなくてもいいんじゃ」
「ビデオ通話なんてしませんよ。それに、彼女達に会う事もありません」
私のつぶやきはシッカリと大鷹さんに拾われてしまった。




