表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚したくない腐女子が結婚しました(連載版)  作者: 折原さゆみ
番外編 波乱の新年の幕開け
153/235

9変人に好かれるらしい

「お待たせしました。生パスタのカルボナーラとミートソースパスタ、マルゲリータにバジルピザです」


 注文したものが届き、私たちはそれらを小皿で分け合って食べることにした。


『いただきます!』


 せっかく料理がきたのだ。アツアツの状態で食べたほうがおいしいに決まっている。河合さんたちも同じことを思っていたのか、私たちの会話はいったん止まった。しばらくの間、私たちは無言で生パスタやピザを堪能した。


ちなみに、私と当間が子どものころ、お隣同士だったことは私が事前に話していた。初日で知り合いだとばれてしまった時に、仕方なく暴露した。


「じゃあ、本当に先輩と同じ会社に転職したのは、偶然だったという訳ですね。すごーい。こんなことって、なかなかないですよ。もしかして、先輩との再会に運命とか感じちゃいました?」


「運命、ですか。どうでしょう?」


 食事が一通り終わり、河合さんが面倒な話題を当間に持ち掛ける。ここで、私の方にちらりと視線を向ける当間にイラっとくる。私としては、運命とかそんなものはみじんも感じない。視線を向けられても、ただ首をかしげるしかない。


「偶然ですよ、偶然。それに」


 私は既に結婚しています。


 正直に運命を感じない理由を簡潔に述べる。私の言葉に今度は当間が首をかしげている。視線が私の左手に感じる。どうやら、私が結婚指輪をつけていないことで、独身だと思われていたようだ。さらに。


「あれ、紗々ちゃんの苗字って、倉敷のまま、だよね?」


 苗字が変わっていないことに気づいたらしい。指輪と苗字。それだけで独身だと判断してはいけない。今時はいろいろな夫婦の形があるのだ。その辺を理解していないとは古い男である。


「実は、先輩は私の元カレと結婚したんですよ!これもまたすごい偶然ですよね?」


「河合さんの元カレ……」


 そんなことは言う必要はない。河合さんの言葉に当間が困惑した表情を浮かべる。当たり前だ。その話が本当だとしたら、大抵の人間は、私と河合さんの仲が悪いと想像するだろう。当間も同じことを思っているようだ。実際は河合さんが一方的に私に話し掛けてくるが、私も満更でもない感じで、良好な仲を築けているとは思っている。


「余計なことを言わないでください。私の個人情報を勝手に他人に漏らすなんて」


「ごめんなさーい。じゃあ、お詫びと言っては何ですが、今度は当間さんのことを話してもらいましょう?当間さん、実はうちの会社に気になっている人がいますよね?」


「い、いきなりなんですか?」


 河合さんの言葉に、当間が急に慌てだす。別にこの男に気になる人がいてもいなくても、興味はない。とはいえ、こちらに視線を送る様子がうざったい。これではまるで、私のことが気になると言っているようなものだ。まあ、そんなことはありえない。


「ああ、先輩は心配しなくても大丈夫ですよ。ここから先輩をめぐって、男女のドロドロの戦いが幕を開けることは無いですから」


「いや、私は何も言っていないけど」


 心配とはいったいどういうことか。何も心配などしていない。


「ぼ、僕の事は、今はいいでしょ。それより、河合さん、今話したことは本当なの?いったい、河合さんの元カレって、どんな相手?」


 どうして、私の夫のことを元カノの河合さんに聞くのか。失礼にもほどがある。もしかしたら、私の結婚を疑っているかもしれない。


「私の口からは何とも。ただ、先輩も彼も相思相愛過ぎて、糖度が高すぎて、見ていると胸やけがしてしまいそうな夫婦です」


 ひどい言い草である。とはいえ、あながち間違いではない気がした。大鷹さんに愛されているのは身に染みて感じるし、私もまた、大鷹さんを……。


 私が大鷹さんのことを思い出していたら、河合さんがトンデモ発言をかましだす。


「当間さん、実は先輩が既婚者で驚きました?自分より早く幼馴染が結婚して悔しいですか?残念ですね。先輩との運命的な再会で、先輩から告白されるのを待っていたのかもしれないですけど」


「はあ」


「いやいや、僕は別にそんなことは思って」


「当たり前です。先輩を好きになるのは、私や大鷹さんみたいな変人と相場が決まっています。あなたみたいな普通の年下好きには、先輩の魅力は理解できませんから」


 早く帰りたい。


 これほど強く願った食事会もあまりない。変人に好かれるという、うれしくない事実を知ってしまい、あきれて苦笑するしかない。確かに思い返しても、大鷹さん、河合さん、大鷹さんの親戚。誰もかれもが一癖二癖もある人たちばかりだ。それに比べたら、当間はただの一般人。私から見たらただのモブである。



「ということで、当間さんは先輩が好きなわけではなく、この運命的なシチュエーションに酔っているだけですね。現に、先ほどの話の続きですが」


 ここで、河合さんは一度口を閉じて、深呼吸をして間を空ける。


「梨々りりかちゃん、確か当間さんより10歳くらい年下ですよね」


そして、一気に当間の個人情報をばらし始める。いったい、河合さんはどこでそんな情報を仕入れるのか、観察眼がすごいのか。あきれて何も言えずにいたら。


「どうして、その名前を!」


 本当に気になっていた女性がいたようだ。梨々花ちゃんは私の会社に勤める女性社員で、昨年、新卒で入社したばかりの22歳だ。苗字は佐藤で、佐藤は複数人いるので、名前呼びが定着している。当間が確か私より3歳年上だった気がするので、年の差約10歳。


「年下趣味だとは知りませんでした」


「ちが、たまたま梨々花ちゃんがタイプだっただけで」


幼馴染が年下趣味だったとは驚きだ。とはいえ、そうなれば、大鷹さんの心配事はなくなった。この目の前に座る男が、私にちょっかいをかけることはないからだ。


 とりあえず、今日の食事会での収穫はあった。これ以上の収穫を求めるのは無理だろう。だとしたら、後はサッサと食事を食べて帰るのみ。


「残っているパスタとかピザ、冷めてしまう前に食べましょう?」


 二人に声をかけ、私は食事を再開する。アツアツもおいしかったが、冷めてもおいしかった。



 後日、梨々花という女性社員と幼馴染は急速に仲を深め、交際を始めたといううわさが支店内に広まった。どうやら、彼女は当間との年齢差が10歳でも気にならないらしい。

世の中、いろいろな人がいるものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ