2隣の家の一人息子
新年早々、甘々な初詣を終えた私たち夫婦。1月2日は大鷹さんの実家に顔を出し、本日1月3日は私の方の実家に赴いた。
「あけましておめでとうございます」
「あ、あけましておめでとうございます。お義母さん、お義父さん」
私は何かあるたびに実家に帰省しているので、年始に帰省しても、懐かしいという感覚はない。反対に大鷹さんは久しぶりに私の実家に顔を出したので、少し緊張しているようだった。2人で実家の玄関に入って、両親に新年の挨拶をしたが、その声は少しだけ震えていた。
「あけましておめでとう。攻君、紗々」
「あけましておめでとう。どうぞ、中に入ってちょうだい」
両親は私たちの帰省を快く歓迎してくれた。家に招かれて、お言葉に甘えて家の中に入っていく。大鷹さんも私に続いて靴を脱ぐ。やはり、実家はよいものだ。自分の家があるにも関わらず、実家はやはりほっとできる場所だった。においや雰囲気が私の気分を癒してくれる。
「紗々、年末に言おうと思っていたことがあるの」
リビングのソファに案内されて、大鷹さんと私はありがたく腰を下ろす。母親がお茶を準備するためにキッチンに向かおうとしたところで、一度、足を止めて私たちに身体を向ける。
「お隣の当間さんの息子さんが実家に戻るらしいの。息子さん、確か紗々と同じくらいの年齢だったでしょう?」
当間という名前を聞いて思い出すのは、母親の言う通り、隣の家に住んでいる家族の苗字だ。私が小学4年生のころに引っ越してきたので、印象に残っている。私と同年齢の息子と言っていたが、正しくは私より2歳年上の男の子だ。
小学校の通学班が一緒だったが、それ以外になにか特別に交流した記憶はない。当時、私が小学4年生で、相手は6年生。1年間しか一緒に行動していない。その後も中学で1年間、高校は違っていたので、それ以降は全くと言っていいほど、近所なのに顔を合わせることはなかった。
「息子さんって、爽太君のことでしょ。同じくらいって、私より2歳年上だったじゃん。確か、東京に就職して帰った来ないんじゃなかった?それが実家に戻ってきたっていったい、どういうこと?」
「紗々さんの幼馴染……」
私が事実確認のため母親に質問をすると、隣で大鷹さんがぼそりと怪しい発言をしてあごに手を当てていた。なんとなく表情が暗くなっている。何を想像しているのか知らないが、想像しているような関係では決してない。そもそも、幼馴染と呼べるかも怪しい関係だ。たかだか2年くらいの付き合いで幼馴染と呼べるものか。ただの近所の2歳年上の男の子。それ以外の何物でもない。
「2歳年上、それくらいだったかしら。当間さんがわざわざ私たちの家に挨拶に来てくれて、息子さん、爽太君のことを教えてくれたの。なんでも、東京の会社でうまくいかなくて、地元に戻って転職したみたいなの。それを聞いて驚いたわ。だって」
あんたと同じ会社なんだもの。
まさかの地元の転職先が私と同じ銀行だった。偶然にもほどがある。ソファの隣に座っている大鷹さんがさらに暗い顔になっていく。
「同じ会社……。幼馴染との運命の再会。紗々さんが僕から離れていく……」
「離れませんよ。さっきからぼそぼそとみっともない!大体、近所に住んでいるからって、誰もかれもがお隣さん、幼馴染同士で付き合う訳ないでしょ。まあ、爽太君とは幼馴染と言えるかもわからないけど。まったく!」
暗い表情の大鷹さんに何か、気の利いた言葉を掛けようと口を開くが、つい、口調が荒くなってしまう。
「あらあら、そんな心配してくださらなくてもいいですよ。むしろ、紗々の方が心配しなくてはいけない立場です。攻君ほど娘を好きでいてくれる人なんていないので」
「いえいえ、紗々さんは本当に素晴らしい女性ですよ。僕の方こそ、いつも紗々さんに嫌われないように努力しているところです」
なぜ、私の言葉ではなく、母親の言葉で復活するのか。母親の言葉で大鷹さんの表情が元に戻った。改めて隣に住む当間家の一人息子、爽太3〇歳について考える。なんとなく、彼の年齢を正確に口にしたら負けの気がした。すでに私は30歳を越えてしまい、30代に突入しているので、今後は年齢についていこうと思っている。
とはいえ、当間爽太について考えると言っても、大した記憶もないので、思い出しようがないことに気づく。考える余地がないのだ。ただ、当時は他の人よりも高身長で、ひょろっとした糸目の少年だったことだけは覚えている。あのまま成長したのだろうか。
「おや、お隣の爽太君について話していたのかい?懐かしいねえ」
私、大鷹さん、母親の3人で会話をしていたら、リビングに父親がやってきた。どうやら、隣の家の当間家の一人息子の話はまだ続くらしい。




