2オメガバース
オメガバースには男女のほかに第二の性があることになっている。アルファ男性、ベータ男性、オメガ男性、同じくアルファ女性、ベータ女性、オメガ女性という感じだ。BLだとアルファ男性とオメガ男性が物語の中心になるものが多い気がする。
男性でも妊娠可能。とはいえ、誰もが出来るわけではない。オメガ男性のみが可能であり、三か月に一度の発情期にはフェロモンを出して、見境なく欲情してしまうらしい。性欲と妊娠のことで頭がいっぱいになって、その他のことが考えられなくなるくらいのやばい状態。もちろん、男性同士の性交によって妊娠。オメガ男性がアルファ男性、もしくはベータ男性とすることが条件だが、オメガ同士は妊娠できないらしい。
まあ、詳しいことはネットで調べたり、実際にオメガバース作品を読んだりすればわかると思う。ざっくりとした説明で申し訳ないが、とにかく、オメガ男性の存在によって男性の妊娠可能な世界が広がっているということだ。当然のことだが、オメガは受けでネコ、挿入される立場であり、なぜか男性なのに子宮がある設定。ちなみにオメガ男性にも男性器はあるようだが、本来の用途で使われることはない。
子宮があるのなら、生理はどうなるのか。気になってネットでざっと調べてみたが、大抵の設定では生理は来ないことになっているようだ。彼らは発情期には苦しむが、生理の苦しみは味わっていないということだ。
まあ、あくまで基本的な設定ということなので、アレンジして生理がきたり、その他のオリジナルな設定を組み込んでいたりする創作物もあるだろう。ここでは基本的な設定で考えていくことにする。
別にファンタジーなので、現実にすべてを照らし合わせてここが違う、ありえないというつもりはない。なので、生理が来ない設定で私の今の状況と重ねてみることにする。
「そう、私は今、オメガ男性の発情期みたいな状況にあるのだと」
声に出してみると、随分と滑稽な考えだ。そして、ファンタジーと現実をごちゃまぜにした、いかれた考えをしていることがわかる。
だが、そんな考えを生み出しているのが、頭痛が痛い、女性に訪れる月に一度のアレ。決して私の脳みそが異常をきたしているわけではない、と思いたい。
そんなわけで、オメガの発情期について考えていきたい。
「なんだか、理解不能な言葉が聞こえてきましたが、大丈夫ですか?」
私が一人でうんうんと考えているところに、大鷹さんがやってきた。私の部屋に入ってくるときはノックをするはずなのに、どうしたのだろうか。
「ずいぶんと顔色が悪そうに見えたので、心配になってこっそりと覗いて、寝ていたらそのままにしておこうと思ったのですが」
ふむ、こっそり寝顔を覗こうとするなんて、悪趣味な男である。いや、私の心配をしてくれたのか。それにしても、理解不能とは何事か。私の言葉はいつでも理論的である。
「まず、オメガって何ですか?いや、オメガの後に男性、と言いましたよね。そのあとには発情期。気になります」
私の頭にはじき出された今の気分を示した一言をばっちり聞かれていた。これを他人にいや、自分の夫に説明しろとなると難しい。そもそも、オメガバースという設定を知らない大鷹さんだ。まずそこから説明しなくてはならないのは正直、面倒だ。
「オメガバースという設定なるものがありまして、その中のオメガ男性の発情期が今の私の気分にぴったりなのかなと思いまして」
先ほどの言葉を少しだけ詳しく説明する。とはいえ、この言葉を理解するうえでオメガバースという設定を知らなくてはならない。案の定、大鷹さんは理解できずに首をかしげている。
「簡単に言うと、男性でも妊娠できるという、トンデモ設定です。男女のほかにアルファ、ベータ、オメガの第二の性が存在していまして」
「男性が妊娠……」
「普通は驚きますよね。でも、それがこのオメガバースの最大の魅力であると私は考えます。とはいえ、全男性が妊娠できるわけではなく、オメガ男性のみ、という制限があります」
なぜ、私は大鷹さんにオメガバースの説明をしているのだろうか。ネットで調べろと言えば済む話だ。そっちの方が大鷹さんも私の独自解釈よりもわかりやすく、誤解なく理解できるのに。とはいえ、これ以上は無理だ。私もそこまで詳しくはない。
「オメガ男性ですか。そういえば、たまにネットの広告でオメガバースBLの漫画が流れてきたことがあるのを思い出しました」
「詳しくはネットで調べてください。私の説明よりも」
「いえ、紗々さんの説明で大体のことは理解できました。それでその妊娠できるというオメガ男性の発情期と紗々さんの、何が同じなんですか?」
ずいぶんとぐいぐいと攻めてくる大鷹さんにいらだちを覚える。何が同じかなんて決まっている。私もオメガ男性も周期的に来る生理現象に悩まされていることだ。私は生理痛という痛み。オメガ男性は発情期で何も考えられなくなる苦しみ。
「男性で妊娠できない大鷹さんには絶対にわからないことです」
いつもならこんなことで怒りを覚えるはずはないのに、つい、突き放すような言い方になってしまった。
「あの」
「とりあえず、気分が悪いので私はもう寝ます。部屋から出て行ってください」
大鷹さんは私の言葉に怒ることはなかった。何か言いかけていたが、私が遮ったせいで何も言うことなく部屋から出ていった。
「やっちまった」
何もかも、この頭痛のせいだ。薬を飲んだというのに、いまだ効果がない。私はパソコンをそのままにベッドにダイブした。目を閉じると、ずきずきとは違う、こめかみが締め付けられるような痛みが強く感じられる。とはいえ、すぐに眠気が押し寄せ、私はそのまま寝てしまった。