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結婚したくない腐女子が結婚しました(連載版)  作者: 折原さゆみ
番外編 外に出掛けましょう!
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1才能の差

「大鷹さんは、自分が凡人だなあ、って思うときないですか?」


 現在、外は35度越えの猛暑で、外出するのも危険な気温である。そんなある日の休日、昼食のそうめんを食べながら、私は大鷹さんに質問する。


「凡人、ですか?」


「そうです。最近、ふと思ったことがありまして」


 創作者ではない大鷹さんに話して理解してもらえるのかわからない。それでも誰かにこの悩みを打ち明けたかった。


「私って、基本的に仕事が終わったら引きこもっているじゃないですか?休日もまあ、家でゴロゴロしていることが多いし。それで、スマホでいろいろなものを見るわけですよ」


「家に引きこもってばかりいないで、外に出掛けて欲しいですけどね」


厳しい突っ込みが入るが、今は無視しておく。私が言いたいのはここからだ。


「小説や漫画、動画にアニメ、様々な他社様の創作物が目に映るわけです。そうなると、私がいかに想像力の乏しい凡人かと思い知らされてしまって」


「はあ」


「だってそうじゃないですか。私の作品は、当然、私が面白いと思って作っています。それがあわよくば、ネットを通してたくさんの皆さんに届けばよいなと思って今までやってきましたが」


「スランプですか?」


 どうやら、大鷹さんは私が現在、時々陥るスランプ状態だと考えているらしい。確かにスランプ気味ではあるが、そんなのはいつものことだ。大抵、私はそのことで頭を悩ませている。しかし、今回はそれ以上に深刻な悩みなのだ。


「違います。どうやったら、凡人にはない、唯一無二の独創的な発想が出来るのか真剣に考えています」


「先ほどから凡人、凡人と口にしていますが、僕は紗々さんが凡人ではない気がしますけど。だって、僕を驚かすようなことを毎回のようにしでかすのに、それはないです」


「創作物と私の常識を一緒にしないでいただきたい」


 大鷹さんはたまに失礼なことを口にするが、そうか。大鷹さんは私を非常識だと思っているが、それが世間では些細なことだということか。私は目の前のそうめんを急いで口に入れる。そして、思いついたことをさっそく言葉にする。


「私があまりに常識人だから、常識的な発想しか出ないわけだ」


「違います。どうしたら、紗々さんの口から【常識】という言葉が出るのかわかりません」


 なぜか、大鷹さんに否定されてしまった。とはいえ、私が彼らみたいな非凡な才能がないのは、この【常識】というものが深く関わっているということだ。常識がないのはまずいが、あまりに常識にとらわれていては、新たな創造は生まれない。


「ああ、いつか、私の作品がお金になって、そのお金で暮らしていきたい」


「その俗物的なところは凡人だと思いますよ」


「常識人な大鷹さんに言われると、皮肉にしか聞こえません」


 とりあえず、脱凡人を目指して何から始めていこうか。



 昼食後、私は自室のベッドの上でスマホを見ていた。きっと、非凡とか天才とか言われる人たちは、こんな自堕落なことはしていないだろう。意味もなくスマホをいじっているとは思えない。


「時間を有効活用できるのも、ポイントの一つだろうなあ」


 それに、やる気も努力も足りていない。創作物をお金に換えたいのなら、もっとこの自堕落な時間を減らし、創作物のために時間をかけるべきだ。


「努力も苦手だとしたら、マジで私はどうしようもない人間だな」


 基本的に人生、流されるように生きてきた。それで何とかなってきてしまったので、死ぬ気で努力した記憶がない。結婚だって、運よく大鷹さんという素晴らしい男を捕まえることができた。やる気についても、これがしたい、絶対にしてやるというものが今まで特になかった。


「思考がどんどん暗くなっていく……」


 きっと、家から出ないのがまずいのだ。家から出てきれいな景色を見るとか、おいしい料理を食べるとか、外に出るためにいつもとは違うオシャレな服を着るとか、自分とは違うタイプの人間と交流するとか。そうすることで、気持ちがリフレッシュされて新たな発想が生まれるのだろう。


「外に出るのが嫌だから家にこもっているのになあ」



「トントン」


「どうぞ」


 毎回、律儀に大鷹さんは部屋をノックして私に許可を求めてくれる。反対に私はよくノックを忘れて大鷹さんの部屋に突撃してしまう。細やかな気配りが創作に関係あるかわからないが、見習いたいとは思っている。


「紗々さん、やはり、家にこもりきりなことが良くないみたいですよ。想像力豊かな人々は皆、アクティブに外にでて活動しているみた」


「勉強しようと思っていたのに、親から勉強しなさいと言われた気持ちに似てるかも」


 タイミングの悪いとはこのことだ。私だってそのことを考えていたのに。いざ口にされると思いのほか、心に大きなダメージを受けた。


「せっかくの休日なので、水族館とか博物館とか涼しい場所に出掛けましょう!面白い展示がありそうなところ、いくつかピックアップしてきました!」


 言葉の途中で遮られたのに、大鷹さんはめげずに私に外出を提案する。しかし、そう簡単に外に出ないからこそ、引きこもりなのだ。


「熱中症警戒アラートが出ているので、無理です」


 私と出かけられるのがそんなにうれしいのか、キラキラした笑顔をしていた大鷹さんが、私の言葉に一瞬にしてその笑顔が引っ込み、険しい顔に変貌する。


「今週はあきらめますが、次の三連休は絶対に」


 何やらぶつぶつとつぶやいているが、私は無視して重い身体に鞭打ってベッドから起き上り、机の上のパソコンの電源を入れた。

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