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8物語の主人公

【妄想4】

「いきなり呼び出すなんて、私が元カノだからって気軽に呼び出すことはやめてください!ふざけるのもいい加減にしたほうがいいですよ!」


「ふざけてはいないよ。ただ、相談に乗ってほしいことがあってさ」


「相談?いやいや、私に何を相談するっていうんです?おおたかっちが相談したいことなんて、先輩のことでしょう?」


「さすが元カノだけあって、話が早いね」


「離婚の相談とか、私と復縁しようとかはやめてくださいね。私は先輩と同じ職場なんですから、そんなことしたら会社に居づらくなりますし、私はもう、おおたかったちに未練なんて」


「僕の相談に応じてくれた」


 大鷹は元カノである河合江子をカフェに呼び出していた。GWという大型連休というにも関わらず、江子は大鷹の誘いに応じてやってきた。大鷹は誘いに乗った江子の行動自体に自分に未練があると踏んでいた。


 予想通り、未練なんてないと言い切る前に大鷹が口をはさむと、うつむいて黙り込んでしまう。


 GWの昼間のカフェは混雑していた。客層は、自分たちのような若い男女で来ているものもいれば、家族連れだったり、友達同士だったりいろいろだ。そんな混雑した中で踏み込んだ話はできないが、軽い雑談くらいできるだろう。


「最初はあの人と一緒に居る生活が楽しかった。でも、近頃は……」


 苦痛になってきた。


 大鷹は自分の容姿の良さを理解している。女性からどんな風に見られているのかも把握している。元カノのことがどう思っているかなど簡単にわかってしまう。


 ちょっと愁いを含んだ視線を投げながら悲しそうに呟けば、江子は視線を左右にさまよわせて迷いだした。


「でもでも、私は先輩のことを裏切ることはできないし、でもでも、おおたかっちの相談も無下にはできないし、ええとええと……」


 ぶつぶつと何か言っているが、こうなればもう一押しで江子は大鷹の手に落ちる。どうやら、元カノは妻と同じ会社でそこそこ仲が良いらしい。だからと言って、妻の味方をしてもらっては困るのだ。


「江子は僕と彼女とどっちを優先するの?」


 とどめとばかりに甘い声で対面に座る江子に首をかしげながら問いかける。昔から、元カノは自分の甘い声と視線に弱いのだ。江子は悩むように目を閉じて手で頭を抱えている。


「わ、ワカリマシタ。そ、相談だけ、乗りましょう。ただし、先輩とり、離婚だけは」


「ありがとう」


 江子は覚悟を決めたようだ。自分と先輩を天秤にかけて大鷹を選んでくれた。感謝の気持ちを込めて、大鷹は江子の手を取りにっこり微笑んだ。


(だって、あんなに純粋すぎる女性だとは思わなかったんだ)


 30歳を超えるというのに、いろいろ大鷹の常識を超えていた。さすがの大鷹も最初はついていけたが、これ以上、彼女の行動にはついていけない。


 大鷹はこの後、河合江子の家に乗り込む算段を整えながら、江子と一緒にランチを楽しむことにした。







「先輩、妄想とはいえ、さすがに私まで登場させるのはいかがかと思います」


「ごめんごめん。つい、妄想がはかどってさ」


 私は河合さんが見たという、大鷹さんと一緒にいた女性について妄想していた。せっかくなので、河合さんにも私の妄想を聞いてもらったのだが、つい長々と話してしまった。私も河合さんも、グラスに入ったジュースは既に空になり、水の入ったグラスについても空になりかけていた。


「それにしても、先輩は変わっていますよね。普通、自分の旦那が浮気しているかもしれないと聞いて、わざわざそれを妄想する人間なんています?」


「いやいや、浮気しているかもしれないと言ってきたのは河合さんでしょう?それに、私は大鷹さんが浮気なんてしないと信じて」


「はあああああ」


 河合さんが振ってきた話題なのに、なぜか河合さんが大きな溜息をこぼしだす。いったい、私の何がいけないのか。確かに、夫で勝手に妄想するのは良くないことかもしれないが、ため息をはいてあきれた視線まで向けられるものだろうか。


「先輩、おおたかっちのこと信用しすぎでしょ。とはいえ、男の本性を知らないなんてことは無いですよね?現実世界ではわかりませんが、二次元の男についてはかなりの理解があるはずですけど」


「まあ」


「だったら、もっと疑うことをしてください。大体、私の言葉だって疑うべきでしょ。私はおおたかっちの元カノですよ。今はこうして会社の先輩と後輩として仲良くしていますけど、それをなくせばライバルですよ。同じ男を好きになった者同士、です!」


 なぜか、私は河合さんに説教されている。私だって30年も生きていたら、人が嘘を吐くのだってわかっているし、騙す可能性があることだって理解している。学生生活はコミュ障なりに人間観察をして生きてきたし、社会人になってからもそれは続行している。


「一応、私は河合さんよりも年上なんだけど。河合さんは私の何に不満なの?もしかして」


 実は未練がなさそうに見えて、おおたかっちとよりを戻したいのか。


 最後の言葉は口にすることが出来なかった。それを言ってしまうことに抵抗を覚えた。


(別に大鷹さんと離婚しようと問題はないはず。むしろ、私はそれを応援しているはず、だ)


「あああああああああ!もうやめやめ、私が悪かったです!」


 大鷹さんが私と離婚することを考えると、急に嫌な気持ちになってくる。先ほどまでそんな妄想をしていたのに、目の前の河合さんを見ていたら、現実に起こりうると思えてくる。それがとてつもなく嫌だった。


「先輩、先輩、泣きそうな顔しないでください。私がおおたかっちとよりを戻せるわけないでしょう。どう考えても、おおたかっちは先輩のことしか眼中にないんですから」


 先ほどから、河合さんが何か大声で叫んでいるが耳に入ってこない。体温が急激に下がってくる。


(ああ嫌だ。私はこんなにも乙女思考だったなんて)


 私は華々しい物語の主人公ではないのだ。それなのに。


「まったく、お二人で何を話しているかと思えば。河合江子、紗々さんに余計なことを言わないでください」


「お、大鷹さん?」


 実は私は物語の主人公だったのか。ここで聞こえるはずがない声がして、声の主を確かめようと辺りを見渡すと、私たちの席の横に息を切らした大鷹さんが立っていた。

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