6大鷹さんと一緒に居た女性は……
「それで、河合さんが見た、大鷹さんと一緒に居た女性というのはどんな女性だったのですか?」
食事がひと段落して、私は河合さんに質問する。とりあえず、河合さんが見たという女性の話を聞くことにした。絶対に大鷹さんは浮気をしないという信頼があるが、聞いておくだけ聞いておこう。
「なんだかずいぶんとご自分に自信がおありのようですね。でもまあ、おおたかっちは容姿で先輩と結婚したわけではないので、どんなに美女が言い寄ろうとなびかないと思いますけど」
失礼なことを言う後輩である。しかし、そんなことをいちいち指摘していたら、この後輩とはうまくやっていけない。無言でジトリと見つめると、さすがに空気を読んで後輩は大鷹さんが女性について話し出した。
「実は私、大鷹さんと二人で会っていた女性がどこかで見たことがあるような気がするんですよねえ。あんなに美人な人だったら、絶対に一度見たら忘れないと思うんですけど」
人をランチに誘ってまで話したい内容だったにも関わらず、河合さんの話はあいまいで要領を得ない。河合さんが見たことのある、一度見たら忘れられないほどの美人。もし、私が知っている人物ならば、選択肢はいくつかある。
①大鷹さんの叔母「千沙さん」
②大鷹さんの従弟「きらりさん」
③大鷹さんの弟の奥さん「李江さん」
④女装した大鷹さんの従弟「守君」
➃については、もしそうだとしたら面白いなと思った程度のことだ。選択肢には入らない。
それにしても、大鷹さんの周りは美人ぞろいで眼福である。イケメンの周りには自然と美人が集まる習性でもあるのだろうか。そうだとしても、大鷹さんは私を結婚相手に選んでくれた。美人が周りにいる環境で私が選ばれたことに、少しは自信を持ってもいいのかもしれない。
「まあ、この話はこの辺にしておきましょう。あいまいにしておいた方が、妄想が膨らみますから」
「はあ」
「それに、もし私が女性のことを思い出したら、さすがに先輩も心穏やかにこんなところでランチなんてできないはずでしょう?きっと、先輩とランチを終えるころには思い出せる気がしますから安心して妄想してください」
河合さんはうさん臭い笑顔で私を見つめる。河合さんの言うことも一理あるが、だとしたら今日のランチの目的とは。何か隠している気はするが、私がなにを言っても話すことは無いだろう。基本的に私は引きこもり体質でコミュニケーション能力が欠如している。他人から話しを引き出すのは苦手だ。
私はあきらめて妄想の世界に浸ることにした。さて、大鷹さんが二人きりで出会ったのはいったいどんな女性(男性でも可)だったのだろうか。
【妄想1】
「おさむっちの奥さんって、どんな人なの?おさむっちが選んだ人なんだから、かなりの美人だよね。写真とかないの?」
「ないですよ。妻は写真を撮られるのが苦手で、なかなか写真を撮らせてくれなくて。二人で旅行に行って記念撮影しようと言っても、一緒に撮らせてもくれないですから」
「かなり自分に自信がないのか、逆に自分がかなり美人かわかっているのかのどちらかだね。ブスで自分の写真を他人に見せたくないか、美人過ぎて自分の写真の流出を恐れているのか。でもさ、そんな人と良く結婚したね」
「実は、妻は僕の弱みに付け込んできまして。僕の秘密を知られてしまったので、それをネタにされて仕方なく……」
「ふうん。それなら私に任せてよ。これも幼なじみのよしみってやつだね。その代わりと言っては何だけど、奥さんと離婚出来たら、私の頼みを一つ、聞いてもらえるかな?」
「いいですよ」
「交渉成立だね。約束は守ってもらうから」
大鷹は妻の愚痴を幼馴染の年上の彼女にこぼしていた。真っ黒な髪を背中まで伸ばした目鼻立ちが整った美人だ。どうして、目の前に座る彼女を選ばずに妻を選んでしまったのか。彼女の指を見ると、指輪はしていない。もし、昔の約束がまだ有効ならば。
(妻と離婚出来たら、その時は)
GWの休みにこうして誘いに乗ってくれたということは、彼女は彼氏がいないのかもしれない。
(とはいっても、僕の手は血にまみれてしまっている。そんな僕には妻みたいな女と居るのがお似合いなのかもしれない)
大鷹は目の前に座る彼女の笑顔がとても眩しく見えた。




