第一話【始まり】
誤字がありましたら修正するつもりです。
即興による作品のため、矛盾が生じるかと思いますが、ご了承ください。
薄暗い水の中。私は瞳を閉じたまま、ずっと耳を澄ましていた。
水深数百メートルあるかもわからないような底なしの世界で、私は深く深呼吸をした。
「酸素、あるんだ……」
溺れるかもわからない水の中、呼吸をしておいていまさら驚いた。
つい数分前まで、学校のプールサイドで夏の夜風を浴びていた私は、いつの間にかこんな所にいた。
仰向けのまま水中に浮かび、揺れる水面をただ眺めていた。全身で感じる水の温度、冷たい。中指と薬指を動かして、この身体が動くかどうかを確認する。
「やっぱり動くんだ」
安心した。ずっとこんな所で何もできず、浮かんでいるだけなんてつまらない。私は地上を目指して、動くことを確認した手足を使って泳ぎ始める。
水圧に逆らいゆらゆらと揺れる半袖の裾。泳ぎはあまり得意じゃない。だけど、ここでは呼吸ができるから溺れる心配がない、と思う。
ただ、呼吸ができるぶんに心配のなったのは、薄気味悪い底なしだということ。もし、上を目指しても上昇することが叶わず、永遠と上にも下にも進むことができず、このままここに居続けたらどうしようかと、それだけが心配になった。
しかし、心配を裏切るように近づく水面に、私は少し安心した。
物語の中の主人公であれば、フラグがつきまとうもので、私は主人公ではないのだから心配するだけ無駄だけど。
難なく地上に出ることが叶った私は、亀が甲羅から頭をのぞかせるように目まで晒し、そっと周囲を伺う。
「誰も居ない。此処は、森……かな?」
疑問。月明かりが届かない夜空の下には、薄暗く不気味な木立が広がっていた。水から出ても問題なさそうなこと確認すると、私は苔の生えた濡れた地面に手をのせると、両腕に力を入れて濡れて重くなった身体をいっぱいに上げた。
滑りやすい手もとに注意してたものかかわらず、両手を手前につるんと滑らせる私。容赦なく、思いきり顎を打つ羽目になった。
「いだだ」
私は素直に泣いた。
「これ、夢じゃないんだ」
そう言ってあまり役に立たなかった苔のクッションに腕を当てると、ゆっくり起き上がった私。そのまま濡れた服で重くなった身体のまま、一刻も早くこの場から離れようと歩き始めた。
くくぅ、私のお腹が空腹で悲鳴をあげる。
「知ってるよ。晩ご飯、まだだったもんね」
お腹を眺めてさすった。さっきの水、飲めたのかな。いや、呼吸ができたから無理かな。そもそも今日はお風呂に入ってなかったから、汚いだろうし。暗い森を何十分歩いたかわからないけれど、さっきからずっと聴こえる獣の鳴き声に怯えながら耳を塞ぎ、白と水色のお気に入りのサンダルが泥や草で汚れたことも気にせず、彷徨っていた。
「おかあさん、私、ここに居るよ。お願いだから、だれか助けに来てよー」
叫んでもかき消されてしまう声。その場に座り込んでしまう私。さすがに痛くなっていた足は、何となく赤く見えた気がする。指と指の間で太めの紐が絶えず負荷を与え続けてきたのだから、こうなるのは仕方ない。小さな手で足についた土を泣きそうにながらも払った。
腰をあげる気力も無く、もうこのままどこかの木に寄り掛かって野宿するのかな、そう思い始めた。いまだ服や下着は乾いておらず、気持ち悪い。
「誰もいないなら、いっそのことノーパンで……。ゴメンなさい。冗談です。まだ私、女を捨ててません」
自分の言葉に、少し笑顔が戻る。まだ冗談が言えた。まだ大丈夫だ。もう少し頑張ろう。そして私は重たい腰を上げた。
そして時間を気にせず歩き続けると、次第に密集していた木立が進むにつれて細くなっていく気がした。
そして、木と木の間には、わずかな光が差し込んでいることに気がつく。
「……ああ、もしかして森から抜けるのかな」
これはフラグを狙って言ってるわけじゃなく、私の本心。
無意識と足取りが早くなる。息を荒らげて、足の痛みを忘れるほど。だんだん大きくなる光は、希望の光に思え、感情が高まる。
「やっと、森から抜け――ッ!」
気が抜ける直前、私の視界は暗転した。
衝撃と激痛が私の身体を襲う。
呼吸ができず、声もでない。
崖から転げ落ちてるんだ、私。
斜面を転がる私は、そのまま意識を失っていた――。
最後まで読んでいただいて感謝します。
また続きをかける時間を取れましたらがありましたら、引き続き書くつもりです。
その時は、活動報告を使わせていただきます。