その2
今更ですがパソコンでみると改行がスムーズに行われていると思います。
そういえばそういう質問をしていたような。
「世界史と日本史どっち選択した?」
「世界史。どっちもそれなりには修めたけど。」
「世界史選択してどっちもやったの?」
「うちの学校じゃある程度どっちもやるの。それでもってどちらをより深くやりますか、なんて選択の仕方をさせる。」
「はー。学校も生徒も受験で受からせたい目的の方がずっと大事なくせに中途半端に教養つけさせようって高校なのね。」
やけに言葉の毒が強い。
「何か嫌な思い出もあった?言わなくてもいいけど。」
「ん。そね。そういう話じゃなかったし。」
思わず聞いてしまったが聞かない方がよかったのかもしれない。少なくとも私は嫌だ。だから聞いてしまったことを悔やんでいます。
きっと誰にでも、誰にも話したくない何かがある。私の場合、みんながよく話すある事柄がそれに該当してしまい困っていた。その時親しくなったのが彼女である。以来、いざというとき私は彼女になら、誰にも見せたくない心の内側を見せられると信頼をよせている。彼女曰く私もそのような信頼を得ているらしい。だから友達でいられるのだろう、私たちは。
ちょうど日は雲から顔をだすところで、見上げなくても光がまぶしい。
彼女は強い日差しをその手で遮り、ふうっと息を吐く。
「どっちもやってたっていうけどどっちの方が好きだった?」
その問いならば私は安心して答えられる。「断然世界史。」
「合わないなー。漢字覚えられないとか?」
言わないこと、隠すことは良いことなのか。わからない。聞かないことも、探さないことも。優しさってどういうことなのか、ずっと考えてもわからないこと、わかりたいこと。
思案に頭の集中量を割いているせいか天使と悪魔も出てこないご様子。余裕がないから。
こういう思案をおくびにも出さずに会話をこなしてみせる。
「漢字がだめなら中国史まるっきりアウトじゃない。確かにカタカナの方が覚えやすかったかもしれないけど。」
「そういう理由?」
「これだけじゃないけど。」
「じゃあどうして?」
「日本史ってさ、当時あれがああなったからこれがこうなってとかいわゆる歴史の流れと当時の社会制度の二つがあってどっちもそこそこやるでしょ?
私、社会制度覚えるの苦手でさー、公民とかも好きじゃなかったんだけど。
その点、世界史はとにかく修める範囲が広すぎるから社会制度なんていちいちやってられなくてカリキュラムにそんな入ってない。流れさえ押さえとけばなんとかなるのよ。で、私そっちの出来は良かったわけ。だから世界史の方がやってて楽しかったかな。」
「なるほどね。でも嫌いじゃないでしょ?その社会制度とかも。」
「そりゃね、嫌いなら趣味で勉強したりしないし。ただ覚えられなくてねー。」
日はまた雲に隠されて、まぶしさに目を細める必要はなくなった。一段階世界が暗くなったようなこの瞬間が好き。少し落ち着いた気分になれる。
気がついたら心の内側で考えることをやめていて、普通にお喋りをしていた。
まあ、それでもいいか。いまは悪い気分ではないから。
彼女が腹式呼吸をしながら腕を伸ばし、私はそれを見て気持ちよさそうだなとかこのストレッチどこの部位が伸びるんだっけなんてことを考えている。
「それでさ、なんだっけ、そういう社会制度とか儀礼とか…ユ、ユウシキ…?」
数秒なんのことやらと面食らったが、すぐに思い当たった。
「たぶん漢字は合ってる。常識の識か職業の職でしょ?」
「そうそう。どっちだっけ?あれ?読み方も間違ってる?ユウソクだったっけ?」
「どっちが合ってるのかわからないんだよね…。」
嘆息をして頬杖をつく。はっきりしなくてわからなくてすっきりしない。
「なんで?」
「授業の後さ、まず漢和辞典で調べたの。そうするとユウシキで<有識>と<有職>がでてきて、ユウソクって読み方は出てこない。つまりそういう読み方はしないらしい、と。」
「ふむ。」
「でもそれだと先生の方が間違いってことになるじゃない?で次は国語辞典とグーグル先生にお尋ねしたの。そしたらユウソク<有職>しかでてこないわけさ。」
「直接先生にお尋ねすれば?」
「元気があれば今度ね。で課題は?」
「そう、その話がしたかったの!有識?有職故実だうんちゃらいって故実家だったか有職家だったかについてレポートする準備を~、ってやつ。」
相づちを打ちながら終わった課題の記憶を呼び戻す。
「でさ、日本史のその社会制度とか?それは故実に当たらないのかな?そうしたら教科書書いてる人とか日本史だけじゃなくて歴史研究する人ほとんど故実家ってことで提出できるじゃん?これでいけないかな?…ってことを相談したかったのになんかここまで長かったね…。」
「うん。まあ着いたんだからいいんじゃないの。」私も脱線に加担してた気がするし。せっかちとはいったいなんだったのか。これもまたマイペースと呼んで良いのだろうか?
「そうね。で、どう思う?いけそう?」
「実はね…
「えっ」
「もうそのネタ私がやってしまいました。」
「あー!」
かぶりを振って嘆く友人を見るのは実に面白い。でもせっかく被ったことだし、手伝ってあげましょう。友のために、私のために。
なんてね。
タイトル回収が強引でしたし終わらせ方も強引ですね。