第七話 何か出た。何か、としか言えない
丘を離れた僕達は、市街地へと戻っていた。昼食時なのか、商店の通りは人でごった返している。何となく、師匠の足もそこらの食堂で立ち止まりそうになっているし。
「師匠、何処かでご飯にしますか?」
「まだ大丈夫なのですよー。それより、次はこっちなのですー」
鼻をヒクヒクとさせつつ、時折立ち止まりそうにはなるけれど。師匠は屋台街を抜けて、大通りへと向かっていった。うっすらとある記憶通りなら、そこは露店街だったはず。食べ物ではなく、主に装飾品や日用品を扱う行商人が集う場所だ。
「見つけました、あそこですー」
指差した先にあるのは、一軒の商店だった。看板には「トルネの雑貨店」と書かれているけど、店先には製薬材料から服飾雑貨まで、幅広く並べられていた。田舎の雑貨屋か?
おかしい。外から見た広さと、中の広さが釣り合わない。窓から見える風景は変わらないのに。どういう事だろう?
「これはですね、空間拡張技術を利用しているのですよー。亜空間収納の応用で、空間同士を連結させているのですー。フェン君もそろそろ見える頃じゃないです?扉の上と天井の四隅に、魔法陣が描かれているのですよ」
言われて目を向けると、うっすらと魔力の動きが見えた。その大元を辿っていくと、確かに魔法陣らしき物がある。何が書かれているか、そこまでははっきりと見えないけれど。
「綺麗な術式なのですー。執拗に現実と同化させるのは、ちょっと理解出来ませんが。壁の境目に亀裂があるの、分かりますか?」
目を凝らしてみると、確かに薄っすらとヒビのような線が見える。言われなければ見落とすし、もし気付いても壁に入っていると思う程度のものだ。あれ、もしかして魔術的な亀裂なのか?
「正解ですー。現実世界を模倣しすぎて、余計な負荷が掛かっているのですよー。確かに空間拡張は様々に応用出来ますが、こうまで無茶をすれば、綻びも出来るのです。って、あー。ちょっとまずいかもです。一応結界だけ張りますねー」
張られた結界の色は金。師匠の最大防御であり、結界魔法最高強度の物だ。これを超えるとなると、伝説上にある断空結界位のものだ。空間そのものを拒絶するとか、もう反則だろ、と言いたい。あれ?そういえばあの結界、師匠が作った物だとか言ってたような・・・?
「とまあ、こんな事になり得るわけですよー。別次元と繋がってしまい、良く分からない物が溢れるんですねー。フェン君、間違っても今の技量で真似してはいけませんよー?」
亀裂を突き破って出てきたのは、いかにも悪魔然とした存在だった。感じられる魔力だけでも、今のぼくを圧倒的に越えている。駄目だ、終わったと考えるのは、不自然な事じゃない。なんだけど・・・。
「お久しぶりでございます、黒識様。貴方様とお会い出来る日を今か今かと待ち焦がれ、幾年が過ぎた事か!時を経ても変わらぬ美しさ、その気高さ。その気配を感じ取り、私めもつい人の世へと馳せ参じてしまいました」
うん、何処からツッコめばいいのやら。まず言えるのは、コイツの目が節穴って事だ。美しい?気高い?は、寝言は寝てる時に言うから許されるってものだ。
「フェン君、後でお仕置きですー。それはそうと、確か悪魔騎士のゲッテムでしたかー?300年程度の滅びじゃ甘かったんでしょうか。鬱陶しいので、さっさと滅ぶか封印されるかしてもらえませんか?今は見ての通り、私の弟子とお出かけ中なのですよー」
「師匠?悪魔騎士って確か、一体で一国を滅ぼすような危険極まりない連中ですよね?っていうか、昔やりあったんですか?何で永久に封印しなかったんです?馬鹿なんですか?」




