第四十七話 取り戻した日常
もうちょっと続きます
「さて、予想以上に早かったけど、約束は約束だ。あの二人には、僕の加護を与えよう。明日には記憶も含めて元通りになっているはずだから、会ってみるといい」
精霊王はそう言って去ろうとした。・・・が、そうは問屋が卸さない。無表情の師匠が、その頭をむんずと掴んでいたのだから。
「えっと、黒ちゃーん?どうしたのかな、顔が怖いよ。あとね、痛いから離して───痛い痛い、食いこんでるって?!割れる割れる!」
師匠って細腕の割に、異常な位に力があるんだよね・・・。割れるかどうか知らないけど、僕の腕を叩き折った事はある。寝ぼけてて力の加減が出来なかった、とかほざいてたっけ。
「あなたね、誰の弟子に危険な事をさせたか分かってるかしら?何もなかったからいいようなものの、一歩間違ったら死んでたわよ。覚悟、出来てるんでしょうね?」
いや、誰よりも何よりも、お前が言うな。気付かないだろうけど、一応ジト目を向けておく。
「いや、だってさ。一度加護を抹消されたんだよ?どんな事情にせよ、生半可な事じゃ復活させられないし。何より、僕の眷族が納得しない。下から信用されない王様って、何より辛いんだよ?」
「それはそうかもしれないわね。ちょっと頭にきたから、壊滅まではしないけど、憂さ晴らしはさせてもらうわよ?」
そう言って師匠は、大量の魔力を放出し始めた。補助具があっても、今の僕じゃ到底真似出来ない程の魔力制御。って、描かれてる魔法陣がかなり危ないやつなんですけど?!
「ちょ、アースクエイクは本当にやめて!?っていうか、なんで一人で禁呪の同時多重展開とか出来るの?ああー、星落としと熱核加速砲はホント駄目だってば!」
・・・うちの師匠は冗談抜きに、世界を滅ぼせるんではなかろうか?星落としって確か、魔法で巨大隕石を作り出して落下させる、とかいうやつだ。魔法陣の規模から推測すると、一つの国が軽く滅ぶやつだ。って、それって僕も巻き込まれない?
「大丈夫、私達は発動の瞬間に飛ぶから。フェン君、さっきの結界を張っておいてもらえる?断空結界だと魔法の発動も邪魔するから、威力が落ちるのよねー」
言われるがままに詠唱を済ませ、結界を構築する。いや、ほら。キレてる師匠に逆らうと、僕にもとばっちりが来るし?うん、命は惜しいからね。あ、でも黄金城塞が何処まで耐えきれるのか、そういう実験はいつかしてみたいかもしれない。今じゃないけどね!
森の家に帰り、一息つく。と言っても、お茶を淹れてからだったけど。
「んー、久々にスッキリしたわー。ドールマスターにやられっぱなしだった分、色々と溜まってたのよね。ところでフェン君、久々なんだし、ちょっとこっちに来てくれる?」
椅子に座ると、師匠に手招きされた。嫌な予感がするけど、逆らうと後が怖いしね・・・。
隣の椅子に座ろうとしたら、手を引かれて膝上に座らされた。え、いつもは逆なのに、どういう事だろう・・・?
「大きくなったわよね・・・。うちに来た時は、まだ子供だったのに。ねえ、あれから何年経ったんだったかしら?」
「考えてみたら、もうすぐ六年ですね。長いような、短いような・・・。典礼術式から叩き込まれて、魔導工学や精霊学、その直後にエリクシルを作ってみろ、でしたっけ。僕が思い描いていた薬師とは、全くの別物になっちゃいましたけど」
そんな事を言っていたら、後ろから抱き締められた。普段見ていた姿とは別の感触があって、かなり恥ずかしい。いや、何処がとは言わないけど。
「・・・そこだけは、私もちょっと反省してるわ。フェン君なら出来ると思って、色々と無茶な事を言ったしね。私の弟子になった事、後悔してない?」
口には出さず、首を横に振って否定した。後悔なんて、する訳がない。今こうしている事が、幸せなんだと思っているから。
「黒、フェン君貸してくれない?!城の周りに大量の魔獣が溢れてきて、私じゃ手に負えないのよ!あーもう、こんな時にドールマスターは何処か行っちゃってるし、何でかフェン君は小屋にいなかったし!」
ちょっと甘い空気を吹き飛ばすように、先生が現れた。っていうかその魔獣大量発生って、ヴェンタスのせいだよね?あいつ、僕がいないからって間引きサボったな・・・?
「どうしたのよ、そんな狐に化かされた、みたいな顔をして。いいから、すぐに戻るわよ?今は防衛人形がなんとかしてるけど、そう長くは保たないんだから」




