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第四十三話 小さな変化、大きな戸惑い

だいぶ遅くなりました

「そっか、とうとう辿り着いたわけね・・・。どうする?」

「どうしようもあるまい。世界が我々を不要と断じたならば、従うのみ。抗う術も持ち合わせておらんからな」

 突然、私達の体が重くなった。魔力が抜けていく感覚があり、ある程度の所でそれが止まる。今の魔力量は、さっきまでの半分程度だ。不老不死の魔法を維持する事は出来るけど、今までのように潤沢な量のポーション作りは望めない。千年も蓄えてきた知識が、一瞬で自分では使えなくなるなんて。世界というのは、毎回皮肉な真似をしてくれる。

「あれが成ったというなら、我々の出番も終わる。ドールマスターとしての技術を伝えきれないのは、些か無念ではあるが」

「師弟相伝の秘術ばかりだものね、人形師は。ともあれ、これで私達の時間がそれ程長くないのは明らかよ?まさか新しい賢者が生まれる度に、古い方が消え去るなんて、予想もしてなかったけれど」

「意識を人形へ移そうとしたが、弾かれるな。代用品に魂ごと移してしまえば、消滅は免れると思ったのだが・・・」


 さっきのは、一体何だったのか。最後のようこそ、という言葉からは何も聞こえず、特に何か変わった感じはしない。やっぱり、ただの空耳だったかな?

 小一時間の散歩を終えて戻ると、すぐに作業机へ向かった。特に何か浮かんだ訳でもないけど、なんとなくそうしないといけない気がして。

「あれ・・・?」

 まるでパズルのピースが嵌っていくように、自然と体が動く。普段なら考えつかないような術式や理論が浮かび、魔力がそれに合わせて消費されていく。自分が自分じゃない感じがして、ちょっと怖いんだけど・・・。

「出来た・・・」

 見た目は、ドールマスターが作った物と完全に一致している。それでも、エリクシルの時のような達成感とは無縁だ。何でかって、自分で作ったという感覚が無いからだ。

【嬉しそうじゃないね、嬉しくないのかな】

【まだ芽生えたばかりだもの、実感が無いんだよ】

【どうするのかな、どうなるのかな?楽しみだね、楽しみだよ】

 まただ。囁くように、それでもはっきりと声が聞こえる。念話のように頭に直接響くわけではなく、きっちりと耳から入ってくる声。声はすれども姿は見えず、まるで妖精や精霊が話しているようで・・・。精霊?

「何でこんな所に、小屋があるのかしら?それにこれ、魔導精霊核よね。こんなのを作れるのって、人形師位しかいないはずなのに」

 先生の様子が、明らかにおかしい。まるで僕の事を忘れた上に、存在さえ見えていないように。ちょっと待った、前にそんな話を聞いた気がする。何処で、誰から聞いた?って、こんな時の為の記憶潜行か。師匠、ちょっとだけ感謝します!


 その記憶は、意外とあっさり見つかった。先生と食事をした時のもので、ひょんなことからそういった話へ行き着いたんだっけ。

「私達賢者は、普通の人間とは違うのよ。世界に認められた時点で、その存在がヒトとは違うものになるの。普通では私達を認識出来ないし、触れられもしなくなる。魔力の痕跡とか生活の形跡なんかは、普通に観測出来るんだけどね」

 そうだ、確かにそう言っていた。僕は賢者の素質───先生は種と呼んでいた───があって、それがあれば通常通り認識出来るらしいけど。っていう事は、まさか・・・。


「・・・?」

 一瞬、魔力の揺らぎを感じた。量からすると転移魔法か何かだけれど、そんなのを使えるのは黒か私しかいないはず。あの子がここへ来るはずもないし、気のせいだとは思うのだけれど。何か、何かが引っかかる。忘れてはいけないはずの何かを、頭の中から消し去ってしまったようで。

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