第三十九話 師匠の武勇伝?
《いや、親が隠居して何処かに姿を隠したもんで、若造の僕が龍王を名乗る事になったんですよ。元々の口調がこうなんですが、他の亜竜種になめられるってんで、口調を堅苦しくしてたんですが。でも何だってユニコーンの中でも上級種のあんたが、人族と一緒にいんの?何か面白い遊びでも見つけたん?》
胡座をかいてるおっさんが幻視出来るんだけど・・・。というか、こいつ本当にヴェンタスと同い年?口調が明らかに若い兄ちゃんなんだけど。
《此奴の作る飯が美味い、ただそれだけだ。それよりも貴様、さっさと用件を伝えんか》
そうだった。想像と違いすぎて、すっかり忘れてた。
《あー、魔力制御の訓練ですか。黒識様ってそこら辺適当ですからね。確かに自分らの鱗なら、多少は制御の補助にはなるんですけど。タダじゃあげられないんですよねー》
「そう来ると思って。これじゃ駄目?」
取り出したのは、ゴミだらけの炎龍王の鱗。先生の言う通りなら、これで行けるはずなんだけど。
《おお、それと交換なら喜んで。ちょっと汚れてますけど、それさえあれば綻んできた結界も張り直せるし、自分らを狩ろうとする連中を追い出しやすく出来るんですよねー。そこらに転がってる鱗、適当に持ってってください。いや、黒識様の弟子っていうから、てっきり爪とか牙とか、肉なんかを寄越せって言われるかと───痛い痛い!》
師匠の撃った魔力弾が、ドラゴンの体を貫いた。物理や魔法問わず、高い耐久力を誇るドラゴンの体を。流石師匠、無茶苦茶にも程がある。憧れはしないけど。
《だって黒識様って、世界最悪の竜殺しじゃないですか。うちの親なんて、そのせいで眷族の大半がいなくなったんですよ?それが原因で下から吊し上げられて、まだ百歳にもならないうちに風龍王を名乗らされるし・・・。大変だったんですからね?》
「ちょっと山を揺らしただけなのですよー。被害も出していないのに喧嘩を仕掛けてきたのは、そっちでしたよ?」
《大規模な魔力振動が起きて、原因が黒識様なら話は別ですって!直前にトクワンの森で何をしたか、忘れた訳じゃないですよね?》
トクワンの森は確か、大陸南部にある大きな森林地帯の総称だったはずだ。そういえば、小さな空白地帯が地図上にもあったっけ。まさか・・・。
「あー、竜種を何体か叩き潰した記憶がありますねー。あれって誰かの巣だったんですか?」
《当時の地龍王が、あそこを根城にしてたんですって。代替わりして東に住処を移しましたけど、理不尽に一族が全滅させられたから、って竜種対人族の全面戦争が起きかけたんですよ?風竜種が事を納めたっていうのに、直後にあれじゃ自分らの面子丸潰れですよ、ホント・・・》
やっぱり師匠は師匠でした、って事かな?それで片付けるには大事すぎる気もするけど、師匠だし仕方ないよね。
《目的も済んだであろう。そろそろ帰るぞ、小僧。また顔を見に来る故、その時は歓迎するがよい》
飽きたのか、大きな欠伸をしていたヴェンタスがそう告げた。ずっと師匠と風龍王が話してただけだし、退屈するのも分かるけど。
「あ、帰るなら洞窟の入口付近にある、黒い石を採取しておいてくださいー。すぐ使う訳ではないんですが、色々と便利な物なのでー」
《やめてください!何とかに刃物で、それ危ないやつです!サニータ岩って言って、自分らの魔力で変質した魔石なんです。ちょっと知識があれば、色々な物に加工出来ちゃう代物なんです》
そんな物、目に付く所に置いておかないでほしい。って、この巨体じゃそれも無理な話か・・・。取り敢えず、僕の目に付く場所では実験しないでほしい。責任が問われちゃうからね、いや本当。知らなかったで通せば何とかなるなる。




