第三十八話 切り札?いいえ、単に最強手札です
ポンコツ賢者復帰回。どっちが主人公だっけ?
《彼奴め、まだこのような場所に棲んでおったのか。地龍王といい奴といい、辛気臭い場所を好むものだな》
ヴェンタスの話では、地龍王とは狩り仲間で、百年程前は良く森で会っていたらしい。今は大陸東部に巣を作り、なかなか出てこないのだとか。一度遊びに行ったら、全力で追い出されたとか何とか。実は仲悪いんじゃない?
辿り着いたのは、薄暗い洞窟だ。前は入口から少し入った所で採集したけど、奥の方も完全な暗闇ではなかった。魔力で発光する石があり、それが光源となっているらしい。弱々しい光だから、照明代わりには使えないかな?
少し大きめのトカゲが出てきたけれど、これらは全て普通のトカゲが風龍王の魔力で突然変異した物だ。食べられない事はないがかなり不味いようで、ヴェンタスは見向きもしなかった。
《ここを我が根城と知っての狼藉か?人間共よ、引き返すがよい。我が怒りを買いたくないのならばな》
最奥部なのか、少し開けた場所へ出た。すると突然、割れる位の頭痛と共に念話が飛んできた。かなり強い思念なんだろうな・・・。
《そう邪険にするな、我が友よ。幼い頃はあれ程遊んだ仲ではないか》
《一角獣の王か?何故貴様が人間と共にいる。それは別として、貴様らを招いた覚えはない。ここから立ち去れ》
突然、全身を突風が襲う。どう考えても風龍王の魔法だけど、どうにか耐えきれる強さだ。それでも、交渉の余地もないとはまさにこの事で。なのにヴェンタスは前へ進み、何やら小声で話しかけていた。
《良いのか?彼奴の師は、貴様ら龍種が最も恐れる存在だぞ?》
《我ら龍種は、地上に於いて最も偉大な存在よ。故に、我らが恐れる者など存在せぬ》
《良くぞ吐かした。おい、貴様の師をここへ連れて来い。良いな、本来の師だぞ?》
会話が終わったのか、僕へ向けて念話が送られた。本来の師って、あのちびっ子だよね?まあ、呼んで来いって言うならそうするけどさ。
《数分で来る、それまで待っておれ。恐れる物など無いのか、確かめさせてもらおう》
転移した先は、森の中の家。一ヶ月位しか離れてなかったけど、妙に懐かしく感じる。そして中からは、物音一つしない。留守、なんて事は無いよね?
「師匠ー、ちょっとお願いがあるんですけど、入っていいですか?」
「フェン君・・・ですかー?」
間髪入れずに出てきたのは、幽鬼・・・じゃなかった、妙に窶れた師匠だった。怪我だらけだし、髪はボサボサ。魔法で維持出来るから手入れ要らず、って言ってたけど。今は使ってないのかな?
「はい、フェンです。僕のお願いを聞いてくれるなら、今作っている物が完成し次第、こっちに戻りますから。・・・反省してます?」
そう言った途端、師匠の目の色が変わった。一瞬で怪我は治り、傷んでいた髪も元通り。あ、地雷踏んだ?
「反省してます、すっごく反省してます。炎龍王に頼みに行きましたが聞いてくれませんでしたし、フェン君に会いに行ったらドールマスターが全力で追い返すしで、寂しかったのです・・・。どんなお願いですか?」
「何も聞かないで、今から転移する場所にいるのと話してほしいんです。ヴェンタス・・・あ、あのユニコーンに付けられた名前なんですけど。あいつが師匠を呼んでこい、って言ってきたんですよ」
いくら師匠でも、風龍王相手にどうにかできるとは思えないけど。って、待てよ・・・?
「時に師匠、風龍王って知ってます?」
「風龍王・・・ウィンディでしょうか、それとも今代のガストの方でしょうか?ガストの方はあまり良く知りませんが、先代のウィンディは百年程前に喧嘩を仕掛けてきたので、返り討ちにしましたよー」
・・・なるほど、そういう事か。今の風龍王の親が先代なら、恐怖は身に染みているだろう。数多の竜王種を統べる親が、たった一人の理不尽に叩き潰されたんだから。
「・・・?何か良く分かりませんが、案内してくださいー。フェン君の頼みなら悪魔族だろうが何だろうが、コテンパンにしちゃいますよー」
ああ、何かとても頼もしい。普段はあれだけど。
《ようやく戻ったか。して、何を連れて来たのだ?》
「親の陰に隠れていたトカゲが、随分と偉そうになりましたねー。私の弟子の願いを断るなんて、何を考えているんでしょうか。滅ぼされたいんです?それとも全身を素材に加工して、世のため人のためになってみますかー?」
その姿を見た途端、風龍王の姿が小さくなったように見えた。小刻みに震えて、放出される魔力が安定しない。効果抜群、かな?
《ええと・・・もしかしてもしかしなくても、ノゾミ・黒識様でいらっしゃいますか?》
質問には答えず、師匠は首を縦に振った。それでもう終わりだ、姿を見せた風龍王は、ひたすら土下座していた。
《ごめんなさいごめんなさい、生意気言いました。まさか黒識様のお弟子さんだとは思わず、つい威嚇してしまいました。全力は出していないので、傷一つ付けていません。ですからその・・・とにかく、殺さないでくださいぃぃぃーーー!》




