第三十六話 悪影響?
《・・・ふむ、最初よりはマシになってきたか。まだまだ完全には程遠いが、及第点ではあろう。貴様が作ろうとしている物、その為だけであるならば、十分だ》
もうすぐ日没という所で、やっと合格点が貰えた。一日あれば大抵、最上級魔法を扱える程度まで伸ばせるらしいけど。鬼か。
《夕食にはカエレヴァ草とテッサンの実を寄越すがよい。でなければ明日、オークの巣に放り込むぞ?ジェネラルはおらんが、ハイオーク共の率いる巣程度だったな》
森の近くに、そんなのが出来ていたらしい。徒歩半日という場所で、こっちまで来る可能性は低いけど数が多い為、巣分けが行われたら流れて来る可能性はある、という話だ。・・・師匠だったらきっと、素材確保ですーとか喜んで殲滅に行きそうだ。
《我の知った事ではない、彼奴らの始末は貴様ら人間の仕事だ。それより、早く夕食の用意をしてこい。魔力制御を教えてやったのだ、マトモな物を出さなければ承知せんぞ》
はいはい、と言いながら転移魔法を起動させる。住んでいる小屋への一方通行だけれど、自作の携帯魔法陣は完成している。耐久性?ユニコーンの毛皮に刻んだ魔法陣が、そう簡単に劣化なんてするとでも?更に魔力でコーティングしてるから、保存性は抜群だ。黒みたいだ、と先生からは冷たい目で見られたけど。解せぬ。
小屋に戻ると、先生がいた。捜し物をしている感じだけど、何だろう?
「あ、戻ってきたわね。突然なんだけれど、カノート岩かアイフェル石の粉末って持ってないかしら?」
どっちも最近頻繁に使うから、常に亜空間収納に保管している。中和剤として使うのに適した素材で、アイフェル石に至ってはあらゆる魔力の殆どを分解する、という性質を持つ。魔力的に異なる素材でも、上手く混ざり合うように出来る素材だ。少なくとも僕は、これ以上の効果を持つ物を知らない。思い付くだけでも用途がかなりの数あって、何に使うのか検討もつかない。
「ありがとう。あら、なかなか良い品質ね。こんなのなかなか見ないけれど、何処で見つけたの?」
「北の方にある、岩がゴツゴツと突き出た山脈です。少し登った所に洞窟があって、そこで見つけました。奥の方は嫌な気配があったので、近寄りませんでしたが」
答えたら、眉根を寄せて顰めっ面をしていた。変な事でも言ったかな?
「北で岩場の山脈・・・?ああ、キレイア山の事ね。洞窟の奥へ行かなかつたのは正解よ、それ風龍王の住処だから。入口近辺だけなら見逃すって、あれも丸くなったのかしら?」
風龍王グレア。炎龍王に並ぶ古龍種で、四大龍王の中では最も恐れられている存在だ。文献にも姿を見せない地龍王や水龍王は別としても、炎龍王は頻繁に人間と交わっている。風龍王は人間嫌いで、縄張りに一歩でも踏み込めば追い返されるか、文字通りに蹂躙されるという。風龍王の鱗なんて神話級の希少品で、入手出来たら大陸丸ごと買えるだろう、なんて冗談も混じっていた。え、冗談抜きに買えるかもしれない・・・?売るかどうかは別として、どんな物が作れるか試してみたい。え、これも師匠っぽい発想?ご冗談を。




