第三十三話 次の地獄へ。一丁目よりマシ
「あ、結構美味しい・・・」
出来てしまった。先生と話をすると、頭の回転が良くなるというか、普段なら思いつきもしない方法が浮かんで、作業が進む。今日もそんな感じで、五分か十分位の雑談をしただけだったんだけど。
「やってみたら、意外と簡単だったかな?何となくだけど、森招きを作った時と同じ感じだったな」
完成した物は仕方がない。何を言われるか分からないけど、先生に見せに行こう・・・。
「あれから一ヶ月ちょっとで、もう完成させてくるなんてね。一応聞いてみるけど、何がヒントになったかしら?」
「先生が書いた魔力変換式を見ていたら、固定化出来る数値があるんじゃ、と思いまして。僕の魔力は変わらないんだし、少しでも効率の良い変換方式は無いかな、と考えてみた結果です」
答えると、はあ、と溜息一つ。もしかして、何かやらかした?
「私が使っている方法と全く同じよ、それ・・・。ドールマスターを呼んでくるから、ちょっと待っててね」
「そろそろかと思ったが、やはりか。当面、私の下で鍛錬に励んでもらおう。手始めに精霊魔導核を用いた形代作りからだな」
・・・はい?
いきなりドールマスターが現れたと思ったら、出会い頭のその言葉。新しい事を覚えられるのは嬉しいけど、何で・・・。
「フェン君には十分な才能があって、下地もしっかり出来ているから。私達がいつまでこの世界にいられるか分からない以上、後継者を作っておく必要があるのよ。大陸一の人形師と薬師、自分達で名乗ると間抜けな称号だけれど、それらを失伝させるのは大きな損失だもの」
「私と青、二人で話し合った結果でな。君がここに逗留する間、我らの知識と技術を徹底的に教え込む事となった。黒の弟子を名乗る以上、まさかと思うが、否はあるまい?」
正直に言うと、不安はある。二人の話を聞いていると、僕に賢者という名が務まるのか、という点で。二人の技術も知識も圧倒的に上だし、尖った点だけ見れば師匠だってそうだ。・・・あれの真似はしようと思わないけど。
少し考えて、僕は頷く事で意思を示した。言葉を尽くすより、その方が意味を持つ気がして。
「ならば、早速始めよう。精霊核と魔導核、精霊魔導核の違いは分かるな?」
「精霊核は、魔石に精霊魔法を封じ込めた物で、主に装備品への装着に使用されます。封印した魔法によって、種類に応じた効果が発揮される類の物です。魔導核は魔石ないし魔力を持つ鉱石に、属性魔法や召喚したモノを封印した物で、一般的には自動人形の制御や、武具への付与に使われています。精霊魔導核は───」
ここで言葉に詰まった。精霊核を誰でも作れるようにした物、というのは知っている。でも、それがどんな物なのか、どういった作り方なのか、全く分からない。
「概ね正解だ。魔導核の素材は大抵の物に適用出来るが、例外もある。鉱石自体が強すぎる対魔力を持つ場合は、使用出来ない事もあるがな。以前製作していた錬魔銀は、その最たる例となる」
錬魔銀というのは、僕が合成銀と呼んでいた物の名称らしい。まあ昔は作られていたって話だし、当時の呼び名くらいはあるよね・・・。
「精霊魔導核というのは、そもそも存在しないと言ったらどうする?」
・・・はい?
「言い方が悪かったか。精霊魔導核とは本来、精霊核と魔導核を複合させただけの物なのだよ。時代が移るにつれて製法が失われ、名称すらも失伝していったが。そういった意味で、存在しない物なのだ」
そして我が弟子らは何をしていたのだ、と零す。精霊工学もそうだけど、人形使いの技能でどれ程のものが、世間に遺されていないんだろう。っていうか、僕に修得出来るのだろうか?
「人形使いの技能に関しては、口伝出来る代物ではない。平時ではあっても、実践あるのみだ。製法を覚えた後は、私との実戦に付き合ってもらおう」




