第三十二話 天才、或いは天災という怪物
ちょっと遅れました。
ポンコツ不在回です
それから一週間、進展と言えるほどの進展は無かった。師匠がやってきて、先生達にあっさりと返り討ちにされた位だ。ドールマスターの人形が一斉に襲いかかった、とかなんとか。大陸を制圧した人形群で、流石の黒でも撤退せざるを得なかった、と嬉しそうに語ってくれた。ざまあ。
「謝る気配が無かったからね。反省しない限り、フェン君には会わせないから安心してね」
そう言ってくれたので、一安心。会いたくないわけではないけど、甘やかしたら癖になるし、つけあがるだけだ。子育てかな?
「さて、それはもういいとして。進捗はどうかしら?」
ギクリ、という音が聞こえた気がした。実を言えば、足踏み状態が続いていた。これといった方法が思い浮かばなくて、先生に相談しようと思っていた程度には。
「鋭意進行中、じゃ駄目ですよね・・・?考えられる範囲で試しましたが、上手くいかなくて・・・。理論からもう一度見直している所です」
「やっぱり、変な方向に勘違いしているわね。どういった理論を組み立てたのか、ちょっと見せてもらえる?」
先生に渡したのは、走り書きのメモを清書した物だ。細かく計算し直したけど、自分では何処が違っているのか分からなかった。魔力量と術式計算は合ってるはずなんだけど・・・。
「ここね。使用するべき魔力量検出で、計算式が間違っているのよ。鑑定は誤差の範囲内だからいいけれど、出力の数値が違うのよね。自分の力量じゃなくて、製作者の力量で計算するべきよ?だから、ここがこうなって───」
新しい紙に、その式が書き直されていく。そっか。元になる物を作った人を計算しないと、結果に差異が出るんだ。でも、それを知る方法があるんだろうか?
「あるわよ?鑑定を限界まで鍛えると、製作者の事も見えるようになるの。フェン君ならそこまで行くのに、あと三年で十分かしら?」
何か最近、先生が盛大に僕を買い被っている気がする。三年じゃなくて、三十年の間違いでは?
「んー、そんな事はないんだけれど。私が理論を組み立ててから、エリクシルを完成させるのに必要とした年数。どれくらい掛かったと思う?」
「僕程度で三年弱ですし・・・半年位でしょうか?」
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ・・・。万能の霊薬を、素材から集めて三年ですって?精製前の半端な物を、一年で作ったんじゃなかった?それから二年で、魔力精製の方法を見つけたというの?」
あれ、何か食い違いがある?僕を紹介したのが師匠らしいから、てっきり聞いていたものと思ったんだけど・・・。
「魔力精製、というのが何なのか分からないですけど。金色になったポーションから魔力を抜き出す方法なら、二年と少し掛かってます。ポーションの魔力を媒介として、清浄魔法を発動させただけですが」
「あなたね、そんな方法で魔力精製出来るなんて、誰も見つけてないわよ?あ、魔力精製というのは、ある物質から魔力を取り除く事ね」
え、誰もやってない・・・?あんな簡単で単純な方法なのに、どうして・・・。
「理由は単純よ。魔石以外の自然物質の持つ魔力というのは、とても不安定な代物なの。私が作った物もそうだけど、誰かがそれを使用する事で初めて、個人の魔力と融合するのね。それなのに、あなたって子は・・・」
話を聞いた瞬間、自分の耳を疑った。私が魔力精製の方法を見つけたのは、半端な物を作ってから五年程経っていたのだから。黒はそれを叩き台とした為、完成まで三年だったけれど。素材集めだけで二年は使っていたかしら?
黒は私の直接の子供なだけあり、本来適正の無かった製薬技術に関してもそれなりの能力を持っている。それでも、私の技術や知識の半分にも満たないけれど。
薄く血が繋がっているとはいえ、この子の成長は異常だ。進化と呼んでも差し支えない程、伸び代がある。可能性の化け物なんて、どうしたって勝手に伸びていくわよ・・・。




