第三十話 やっぱり異常。異論は認める。
気分転換のはずなのに、何故か集中していました。
先生の近くに転がり込んで、一週間が経った。亜空間収納の中を掃除したり、素材や色々な制作品の洗浄をしたりと、結構大変な毎日だった。
「いい感じに溜め込んでるわね。このポーションは何?」
「あー、それは失敗作ですね。鑑定してもらえば見えると思いますが、出回っている回復用としてのポーションを、どうすれば高性能に出来るかを試したやつです。完成したポーションには何も混ぜられない、という結果に終わりましたが」
鑑定すると、ポーション(不純物)という結果になる。薬効は殆ど無くなって、水とほぼ変わらない物になってしまった。それでもかなり苦くて、数日間は舌が痺れたままだった。毒性は無かったんだけどね・・・。
「普通に混ぜようとして、混ざるはずがないでしょう?一度完成させた物は再度不完全な物へ戻さないと、何も追加する事は出来ないのよ」
再度、不完全な物に戻す・・・?時間を逆行させるという事だろうか?いや、そんなの出来るはずがない。
ポーションを作るには、魔法が必要になる。素材の加工だけを見ても、粉砕や乾燥、薬効抽出と人力で行うには面倒かつ困難な工程が多いからだ。混合させる際にも一定量の魔力を放出して、という場合も多い為、回復薬一つとっても工程の中にはそれなりに魔法を使う。
「もちろん、時間遡行なんて事は不可能よ。その気になれば作れるかもしれない魔法だけれど、ポーションの為に開発する意義は薄いわね。それなら、どういう方法が考えられるかしら?」
「・・・分離、でしょうか?ポーションを完成させる前、まだ混合させる前の状態に戻せれば、別の素材を足す猶予はある、とか」
考えられるのは、それしかない。味わいの調整が出来れば、子供でも飲みやすくなるし、失敗してしまった調合だって、もしかしたらやり直せるかもしれない。そう思ったらいてもたってもいられなくなった。
「慌てない、慌てない。まずは一度、ポーションの原理から見直してみましょう?無闇矢鱈に試しても時間の無駄になるだけよ」
・・・確かに、思いつく事を全部試して、駄目だったら先生に相談しようと思っていた。というか、もしかして先生もやってみた事があるんだろうか?
「ええ、あるわよ。市販のポーションに混ぜ物をして、材料費を浮かせよう、なんて小狡い事を考えたわね。確か四百年位前だったかしら?手法の確立だけで、エリクシル三十本分の費用が飛んだわねー」
薄らと浮かんだ微笑みはかなり魅力的で、ちょっとドキドキした。防御結界仕事しろ。見た目は二十代の美女だし、傍から見れば誰でも振り向きそうな程なんだけど。色々とズレているのは、考えたら負けかな。
「・・・思考内容については、深く聞かないわ。新作の実験台で許してあげる。それにしてもフェン君、私に欲情したって本当?」
「誤魔化しても無駄ですね・・・。はい、本当です。だって先生、見た目はかなりの美人ですし、背の高さとか体型とか、どう見ても子持ちには見えないというか。そんな人に目の前で微笑まれたら、男なら誰でも反応しちゃいますよ・・・」
「嬉しい事を言ってくれるわねー。素直な教え子には、ご褒美をあげなきゃね。分離させる時、製作に使われた魔力を鑑定するの。その逆波長の魔力、までがヒントよ。素材は・・・これでいいかしら?」
取り出されたのは、十本少々の薬瓶。全部先生特製のポーションで、一級品なのは鑑定しなくても分かる。鑑定してみたら、半分近くはエリクシルと同等の物だった。・・・こんなのに手を加えるって、一種の冒涜じゃないかな?
「無駄にしちゃってもいいわよ?エリクシルの精製段階で失敗した物ばかりだし、使い道も無いから。足りなくなったらまた作るから、実験頑張ってね?」




