第二十七話 意外な事実、その二
「何処かの騎士団がやりそうな訓練ね・・・。で、結果はどうだったの?」
「一ヶ月後、殆どの上位魔法は結界で耐えきれるようになりました。構築速度が遅いので、不意討ちには対応出来ないんですけど・・・」
今の能力では、ワンアクションで結界は張れない。師匠みたいにほぼ全ての魔法を無詠唱で使ってくる相手には、絶対に対処出来ないだろう。え、そんな魔導師も魔法使いもいない?絶対数の多い魔術師クラスは、そもそも上級すら使えないって?それ本当ですか、師匠・・・?
「世間一般では、一系統の魔法が使えて魔術師、三系統から魔導師で四系統から魔法使いだったかしら?神聖魔法の使い手、神官を除けば殆どがせいぜい二系統が扱える程度で、三属性を扱えるのなんて、研究者か軍の魔導師部隊の副隊長以上よ。耐衝撃の結界なら、すぐ張れるでしょう?」
その時点で、薬師としては異常なんだけど、と小さくぼやいたのが聞こえた。・・・僕もそう思う。
「『薬は薬でしかない、人を救えるのは、人だけだ。』その言葉があったから自分と、この手が届く範囲の人位は守りたいって、そう思うんですよね。だからこうして、結界魔法を覚えるのも悪くないかなと」
「その言葉、何処で誰に聞いたの?」
呟いた瞬間、先生顔色が変わった。何か変な言葉なんだろうか?
手伝いをしていた頃、父さんが度々口にしていた言葉だ。父さんも自分の師匠から教わった言葉で、薬師をやる上で一番大切にしている事だったとか。
「そう・・・。その言葉ね、私がずっと昔に教えていた子がいつも言っていたのよ。物覚えは悪いけれど、とても真面目ないい子でね。太陽草の処理を覚えるだけで、一ヶ月はかかったかしら?誰もが面倒に思う作業でも丁寧にやるものだから、ついつい私も可愛がっちゃってね」
その人の名前は、ガイル・ハプテスクという名前だったとか。その性に聞き覚えがあるような、無いような・・・。
「ハプテスクなら、フェン君のお母さんの旧姓だったはずなのですよー。ハプテスク家はそこそこ名のある旧家ですが、薬師の家系ではないと思いますー。何処かの国で、歴代続く騎士団長をやっていた家系ですねー」
ちびっ子が割り込んできた。というか、何で知ってるんだろう?
「前にフェン君の記憶を覗いた時、ちらっと見たので。なんなら一度、記憶潜行してみます?」
「やめなさい。前にも言ったけれど、記憶を探るなんて危険極まりない事なのよ?フェン君、そこの馬鹿は放っておいていいから。でも、そうなのね・・・。初めて会った時、他人のような気がしないと思ったけれど」
あの子の子孫だったなんて、と小さく聞こえた。意識していなければ聞き取れない位に、小さな呟き。その表情が和らいだように見えたのは気のせいか、それとも・・・。
「そうだった、森寄せってそもそもあの子が開発したポーションじゃない・・・。出回ってるレシピじゃない時点で、関係者の可能性があったわね・・・」
僕が作る森寄せは、母さんから教わったものだ。父さんは治療系、母さんは生活系のポーションに特化していて、二人で一緒に研究していた記憶がある。今巷に出回っている森寄せは亜種と呼ぶべき物で、珍しい素材を使わない代わりに若干効果が低いんだとか。大量の素材を使う分、若干高くなるのにと先生は苦笑していた。
それにしても、語り口に若干の違和感を覚える。その瞳に弟子を語る物とは違う、親愛───若しくは、深愛の情を浮かべているように見えた。いや、考えすぎだよね・・・?




