第二十六話 人外と人外化。不本意ながら
「フェン君がだんだんと図太くなってきたのです。前は素直な可愛い子だったのに、何故でしょう?」
あ、もう復活した。一瞬だけ気絶したみたいだけど、自分にポーションをかけて傷を治していた。人間を辞めているとしか思えない。
「誰のせいですか、誰の。っていうか、僕が作った人形はどうしたんです?まさか、壊したとかじゃないですよね?そりゃ、碌な物理防御は付けていませんでしたけど・・・」
簡単な物だったとはいえ、一応は対師匠用の捕縛装備は持たせてあったのに。対象が視認範囲から消えたら云々という設定は、全部諦めた。理論は構築出来たけど、難易度が高すぎて僕には無理だと思ったからだ。
「あの程度の魔法技術で、私を止められるとでも?生意気になってきたフェン君を悔しがらせる為に、持って来てありますよー。動かないように固定はしましたがー」
亜空間に格納されていたそれは、見るも無残な姿にされていた。手足はもげて、全身氷漬け。しかも核にしていた魔石は、跡形もなく砕かれている。うわ、無駄に高度な魔法で壊してるせいで、修復も出来ないよ・・・。一から作り直す方が早いな、これ・・・。
「ふむ。素材には魔法銀、それも高純度の物を使用しているな。これならば、市井の魔術師には破壊出来まい?それとこの関節部分、これは何故こういった接続なのだ?」
「魔法銀というより、合成銀と呼ぶべき代物かなー、なんて。銀と鉄を魔力で混合した物質で、比率としては銀の方が高いです。球体関節にしたのは、単なる思い付きで。その方が全方位で自由に動くかなー、というだけなんですが」
魔法銀とは名前のまま、魔法で精製された銀の事だ。精製時に使われた魔力がそのまま鉱石に残り、不変性を持つ。銀そのものが魔力を持つので、装飾や魔法陣に使用される例が多い。僕も何度か扱ったけど、使いやすさは抜群だった記憶がある。
錆びやすいけど銀より耐久性のある鉄と、錆びにくい銀。この二つの特徴を併せ持つ金属が出来ないかな、という事で試したら出来上がったのがこの合成銀だった。
関節については、僕の気まぐれに近い。可動域を考えた時、人体を模倣するよりも可動範囲は大きいんじゃ?と思ったから。真球を作るのは面倒だったけど、コツが掴めるまでの辛抱。熱中しすぎて作りすぎたんだったっけ。
「本当、嫌になる位にそっくりだわ、この師弟・・・。その金属、何百年か前に使われていた物で、今じゃ完全に失伝した製法なのよ?巷の人形使いはもちろん、鍛冶師にも名称位しか伝わっていない程度には。それを何の予備知識もなく、自力で作った?馬鹿言ってんじゃないわよ・・・」
怒られた。というか、そこの人外と一緒にしないでほしい。弟子は師匠に似るもの・・・?冗談は存在だけにしてよ、師匠。
「フェン君、後で戻ったら覚えておくのですよー」
「この子に何かしたら、私とドールマスターが徹底的にやり返すわよ?それでも良いのなら、自由にする事ね」
やったね、強い味方がついたよ!これで師匠も、鍛錬とか言って無茶な真似も出来まい。いや、常人なら何回か死んでるって、あれ・・・。
「障壁と防御の訓練と言って、全力の魔力弾を撃つ。それが凌ぎきれたら爆炎系統魔法、続いて風魔法。それが毎日、魔力切れ寸前まで続くんですよ?それも一ヶ月」




