第二十五話 人間?それとも化け物?
師匠はドヤ顔で、無い胸を張っている。かなりウザイ。触らぬ師匠に祟りなし、放置しておこう・・・。
狂化とは文字通り、理性を無くして暴れ回るという魔法だ。急所を刺されたり魔法で撃ち抜かれれば死ぬけれど、多少の怪我なら無関係とばかりに暴走する。敵味方問わずの為、周囲には後衛しかいない事が多くて、大抵は行ってこいの特攻隊的な扱いなんだとか。・・・青式先生の話では、病気で余命僅かと診断されたり、片腕を失った兵士が志願し、そういった役目を担うという事例が多いんだとか。
青式さんとドールマスターの事は、先生と呼ぶ事で話が纏まった。師匠と呼んだら、ちっこいのが猛反対したせいだ。青式さんも呆れ果てて、無難に先生で落ち着く結果になったんだけど。
「それにしても、本当にフェン君は優秀よね・・・。教えた事を吸収する早さも、理解度も桁違いだわ。ドールマスターの教え子で考えても、トップクラスに入るんじゃない?」
「記憶にある限りで、一番優秀と言えるな。精霊核を一日で作り上げた者など、私の弟子には一人としておらんよ」
え、結構簡単だったんだけど・・・。丁寧に教えてくれたし、何より分かりやすい。何処ぞのちびっ子は一回見せたらやってみて、だし。どうしてそうなるか、という理論立った物は自分で調べるか、試行錯誤の毎日だった。・・・そう考えたら、この二人の方が師匠らしい事をしているんではなかろうか?
精霊核は、魔導核の大元となる物らしい。魔石には通常、火や水、風属性の魔法を封じ込めるのに対して、精霊魔法を封じ込めた物を使う。精霊交信では効果が薄く、精霊と契約を済ませた魔法使いが作成する物なんだとか。
それを誰でも作れるようにと研究されたのが、精霊魔導核だ。未だ研究段階で実用には至らないけれど、完成したら殆どの魔導師級なら作れるようになる。・・・既に作ってるのがいる?あれはほら、マトモな人間じゃないし。作り方もマトモじゃない。ついでに思考回路もマトモじゃない、もう止めようもない位にぶっ飛んでる。やっぱり怪物だ、人間かどうかも怪しくなってくる。
「酷い事を考えるわね。でも否定出来ないのが、親として悲しい所だわ・・・」
実の親からも言われたら、もう形無しだ。何故暴れ出さないかと聞かれれば、到底敵わないから、としか答えようがない。大陸至高の、それも単独で一大陸を制圧出来る人形師を前に、勝てると思う存在が変だ。
そもそも、青式先生の結界がこれでもかという勢いで張り巡らされている。魔法の発動すら覚束無いんじゃないかな?あ、無理矢理使おうとして自爆した。ざまあみろ。
「日頃の行いが悪いから・・・。師匠、もうちょっと作る物について、安全とか安全対策とかを気を付けてみません?それさえやってくれるなら、僕だってもうちょっと敬おうという気が出るんですけど」
流石の化け物でも、自分の魔法が近距離で暴発すればちょっと傷付くらしい。さっきの魔法は多分だけど火属性の最高峰、黒焔加速砲だと思う。教典でしか見た事のない魔法で、魔力制御も術式構築もかなり難しい。熱核破壊砲よりは簡単だけど、多少はという程度なんだとか。
そんなのが目の前で爆発したのに、かすり傷で済んでいる。僕なら良くて重症、下手すれば死んでる。やっぱり人間じゃないのかな、この師匠・・・。




