第二十話 出会いと別れ(させてくれなかった)
身代わりに自動人形を置いて、僕はちょっと遠出をしていた。目的地は、何処だか分からない辺鄙な森。この前来ていた青式さんの魔力反応がある場所だ。
身代わりの自動人形には、特製の魔石を入れてある。師匠が作った霊格情報識別装置で僕の家事技術を複製、精霊へ転写した物だ。身の回りの世話なら、あれさえいればどうとでもなる。外殻は魔鋼という、大量に魔力を含んだ鋼材を使った。初めて見る物だったけれど、師匠の魔力弾を弾くような代物だし、その耐久性は折り紙付きだ。我ながらよく出来たと思う。
「すいませーん、青式さんいらっしゃいますかー?」
辿り着いた先にあるのは、不気味な雰囲気の城だった。門は閉じていて、誰かが出てくる気配はない。なのに、いきなり大量の炎や氷の礫が飛んできた。師匠の魔力弾と比べたら、欠伸が出る位に低速だ。当たったら痛いじゃ済みそうにないし、全部避ける。
「ここに入れるのは、世界から賢者と呼ばれる事が許された存在だけよ。貴方には素質がある、それは認めてあげる。けれど、まだその資格が無い。せめてあと五十年、研鑽を積んでから出直しなさい」
何の前触れもなく、青式さんが僕の後ろに立っていた。以前会った時とは違う、抑揚の無い声。顔を見る事さえ怖いと思ったのは、いつだったか師匠が本気で怒っていた時以来だろうか?
「とは言っても、来ちゃったものは仕方ないわね。私の魔力を追ってきたのもそうだけど、使ったのは森招き?まさかここを見つけられるレベルの物を普通の人間が作るなんて、考えもしなかったわ・・・」
森招きは森寄せの上位ポーションだけど、あまり知っている人がいない。森寄せは道に迷い難くする物で、森招きは目標への近道を自然と歩きやすくするという薬だ。魔獣や危険な動物の住処やら、毒性のある植物の群生地やらを避ける道が頭に浮かんでくる、という便利な物なんだけど。僕がこれを作れるようになったのは、つい最近だ。というか、存在を知ったのと作れるようになったのが、ほんの数日前なんだけど。
「カリレラ草がまだ現存したっていうのもだけれど、キエンの枝なんてまだ絶滅していないの?」
「青よ、招かれざる客ならば早々に立ち去ってもらえ。・・・む?君は、確か・・・」
城から出てきたのは、全身を漆黒のローブに包んだ人だった。声から初老の男だと分かるけれど、見た目は黒い、としか認識出来ない。阻害系の魔法を使っているのか、そんな印象しか持てないのだった。
「黒の弟子は確か、薬師だったな。何故人形使いの技能を持っている?」
「確かに、所有技能に人形使いがあるわね・・・。何を作ったのかしら?」
説明してみたら、呆れ顔をされた。そりゃ、作りが雑なのは認める。取り敢えず料理と掃除さえ出来ればいいと、戦闘能力は完全に無視していたんだから。・・・あんな所に来る強盗なんて、いないだろうし。え、そういう意味じゃない?
「人形使いという技能は、そもそもが通常の魔法や製薬技術とは違う物だ。君の作ったという精霊を利用する類の形代は、その最たる物だな。今では・・・そう、精霊工学だったか?そういった呼び名に変化してしまったがね」
なんでも、今精霊工学と呼ばれている学問は元々、人形使いのお家芸だったらしい。それが時代の流れで他に流出し、人形使いの間でも廃れ始めたのだとか。嘆かわしい事だ、とその黒い人は語っていた。
「フェン君、黒の弟子なんてやめて、私達に弟子入りしない?この辺りに住んでくれたら、製薬はもちろん、人形使いの技術も教えてあげられるわよ?」