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第一話 弟子、それと師匠

 扉を叩いた時、ドカーン、と景気の良い爆発音が響いた。ここ、本当に賢者の家なんだよな・・・?

「あうう~、またやっちゃいました~。すいすい君、それは吸っちゃ駄目ですー、あー!世界樹の枝まで!?」

 漏れ聞こえたのは、そんな悲鳴。世界樹って確か、東の果てに生えてるとかいう、世界一長寿の樹だったっけ?エリクシルと同等の薬効を持つ葉を持っていて、朝霧の露でさえもあらゆる傷を癒すとかいう。眉唾物と思っていたけど、実在したのかな。

「すいませーん、お待たせしましたー。押し売りと宗教勧誘、飛び込み営業はお断りしてますが、何のご用でしょうかー?」

 出てきたのは、十歳にも満たないであろう小さな女の子だった。賢者様の子供とか、そんなのかな。

「僕、フェン・マクディーンといいます。ここに住んでいるという賢者様に弟子入りしようと思って、訪ねてきました。賢者様はお留守でしょうか?」

「あー、弟子入り希望の方でしたかー。賢者なんて名乗った事は無いんですけど、私がここに住むノゾミ・黒識です。立ち話もなんなので、どうぞお入りくださいー」

 は?という顔をしていたと、今の僕は思う。噂通りなら、賢者様の年齢は軽く五十を越えるはずだ。なのに、目の前の少女はどう見ても十歳前後。何の冗談だ・・・?


「ふむふむ。魔法薬師で、エリクシル一歩手前、という所ですかー。工学系の知識は人並みですが、精霊学は修めているようですねー。ところで、ここに来るには何を使いました?森寄せでしょうか、それとも精霊交信?」

 僕の姿を観察し、椅子に座らせた、かと思いきや。いきなり僕の知識と技量を言い当ててきた。当てずっぽうにしては、正確すぎる。という事は、鑑定系の魔法?でも、魔力は感じていない。もしかして・・・。

「はい、正解ですー。私の右目は鑑定と読心、精神汚染の複合型で、左は魅了と停滞の魔眼なんですよー。賢者なんて呼ばれている相手といえ、初対面なんですからー。精神防御をしていないと、何が起きるか分かりませんよー?まあ、そこらの防御術式なら、力技でどうとでも出来ますが」

 確かに、今の僕は精神、肉体両面で防御を張っていない。何かされそうなら何時でも逃げられる、と高を括っていたからだ。まさか、両目共魔眼持ちなんて人がいるとは、思いもしなかったし。

「森寄せは確かに効果の高い薬品ですが、単体で使うよりも精霊交信と併用する方が、より正確に森を歩けますよー。実際、希少な薬草や素材、見落としてますよね?森の中には至る所にラエン草にマージ草、千夜花なんかが生えていたはずですー」

 ラエン草もマージ草も、製薬材料になる、割と希少な植物だ。深い森にしか生息せず、しかもその数は少ない。千夜花は更に貴重な物で、千日に一度しか花を付けず、その日だけで枯れてしまう。保存には特殊な技術が必要で、勿論僕はそれを知っている。・・・知っているのと見つけられるのは、別問題だ。

「まあー、色々言いましたが。その若さで森寄せを製作出来て、且つここを発見出来る精度の物となれば、合格点ですかねー。弟子入り、許可しましょうー。ただし、私の教え方は結構厳しいかもしれませんよー?」


 そんな事があったのが、今からざっと二月前の事。うん、確かに厳しかった。なんせ、身の回りの世話からさせられるんだしな!掃除に洗濯、食事作りはもちろん、食料の買い出しや素材集めまで。今までの仕事量が、単純に倍化した感じだ。

「出来ましたー。全自動掃除機すいすい君、三号機改ですー!」

 一般的な発想をありとあらゆる方向にすっ飛ばし、しかも実現出来るだけの技術力。なんかこう、才能とか努力とかを、残念な方向に無駄遣いしている感じだ。

 この全自動掃除機、魔導精霊工学という、まさに世の研究者達が寝る間も惜しんで研究している物を駆使して作られている。精霊を魔導核に封じ込め、半永久的にその力を利用出来る、という代物だ。様々な素材で作られてきたが、出力が安定しなかったり弱すぎたりで、実用に耐えられる物は完成していない。十数年研究されていてそれなのに、この二ヶ月余で三代目。自分の中の常識が、音を立てて崩れたというか、裸足で逃げ出したというか。因みにこの初代が、僕がここを訪ねてきた日に暴走していたアレであった。嫌な予感しかしない。

「ではでは、スイッチオン!」

 ブオーンと唸るような音を立て、すいすい君が起動する。ゴミや汚れを自動で判別し、吸い取って亜空間へ放り込む、という機能なんだけど。説明された当初は、亜空間なんて想像さえしなかった物だけれど、今でもその基本概念しか把握出来ていない。そんな代物が暴走でもすれば、どうなる・・・か、って?

「はわわー、また暴走ですかー?!フェン君、見てないで止めてくださいー!」

 ・・・案の定。無造作に積み上げられた素材をゴミと判断したそれは、周囲の空間丸ごと、吸い込もうとしていた。

「またですか・・・。いい加減諦めましょうよ、これ」

 溜息混じりに呟き、指を一つ鳴らす。暴走するすいすい君の動力がそれで弾け飛び、危険は去った。幾つかの素材が虚無へ封じられた以外は、特に損害も無く・・・。

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