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第十六話 彼女の時間

 正直に言うと、ここに来るつもりはありませんでした。頭のおかしい人ばかりで、長居するとこっちまでおかしくなりそうなので。

「貴公にそう言われると、甚だ遺憾だがね。百年ぶりかな、黒よ。その趣味の悪い姿はどうにかならんものか?」

 姿も見せず、頭に直接響かせてくる声。これだから、陰険根暗な老人は厄介なんですよねー。

「いえいえ、百年ではなく九十八年ぶりですよー。年を重ねすぎて、数の数え方まで忘れましたかー?」

 言ってくれる、と言わんばかりに遠くから魔力弾が飛んでくる。フェン君あたりだと、首から上が吹き飛ばされそうですね。でも私の金色結界の前では、微風以下なのです。伊達や酔狂で、最高硬度の盾を名乗らせている訳ではないのですよー。え、断空結界?あれはワンアクションでは展開出来ないので、ランク対象外です。いやはや、我慢の出来ない年寄りなのです。

「この程度で終わりですー?用件を済ませたいのでお邪魔しますねー」

 どうせ本人ではなく、自動人形の攻撃なのです。攻撃の出元を結界で封じ、扉を開ける。呼吸するより簡単な事って、他にあるのでしょうか?


「久しぶりですー、人形師(ドールマスター)。自慢の人形遊びは終わりですか?」

 長い通路の途中には、大量の人形がありました。人形使いは形代とする人形を製作し、それを自在に操る人を指します。人形師はその最上位で、当代随一の使い手が名乗る事を許される称号なのです。一つの大陸を制圧した人形使いですし、当代最高峰というのは、あながち間違いではないでしょうねー。

「破壊の賢者相手では、相性が悪いか。二度と会いたくないと城を出た貴公が、今更何用かね?」

「ちょーっと引き合わせたい相手がいまして、ですねー。私の弟子なんですが、なかなかの才能を持っているのですよー。これを僅か一年足らずで作ったなんて、信じられますか?上級ポーションまでは、弟子入り前に製作出来ていたのですが」

「ふむ、エリクシルの偽薬か。生憎私には製薬に関しての知識は無くてな。それ程の逸材か?」

「一年で作製したのなら、十分天才と呼べるでしょうね。偽薬というより、これは魔力精製出来ていない、半端な代物ですけど。黒、これを作った子は連れてきていないの?」

 奥の暗がりから、別の女が顔を出してきました。彼女は創造の賢者、なんて渾名で呼ばれています。破壊なんて物騒な名前、私としては御免こうむる所なのですが。

「青の前に連れてきたら、どうせ誘惑するでしょう?いない時を見計らいます。可愛い弟子を誑かされたらたまらないのですよー」

「あらら、嫌われたものね。でもねえ、黒?あなたと私の仲じゃない。どんな子なのか位、教えてくれるわよね?」

 この世に伝わるポーションは、実はこの女が創った物なのです。見た目は三十代ですが、実態は千年を生きる魔女ですし。これが私の母だと思ったら、溜息しか出ないのですよー。


 ノゾミ・黒識と創造の賢者、アキラ・青式は実の親子だ。賢者と呼ばれるようになり、この城への出入りが許可された時、二人は実の名を捨てた。私の名は人形師、ドールマスター。それ以上でも以下でもない。昨今の人形使いは弛んでいる、私のような老骨を当代随一としたまま、平気でいられるとは。

 思考が逸れていたな。黒の弟子には興味がある。あの壊すしか脳の無い黒が、弟子をとったのだから。が、彼女の言うように不安もある。青の持つ堕落の魔眼は、彼女への絶対的な服従を齎す。その手で何人の年若い男を拐かした事か。

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