第十五話 一歩ずつ、その足で───
行き詰まった。というか、倒れそう。大陸の大半を転移魔法で移動して、ほぼその日の内に実験と師匠の世話をする。何か最近、魔力量が異常に上がったような気がするけど、何でだろう?
「毎日毎日、ほぼ空になるまで魔法を使っていますからねー。虚脱状態にならないように、と体が勝手に容量を増やすのですよー」
要は筋肉トレーニングのようなものです、と師匠は付け加えた。確かにあれ、筋肉痛だからと訓練をやめてしまったら意味が無い、なんて言われてる。あの痛みがあるから筋力が付いて、とかなんとか。魔力を使いすぎて眠くなるのも、同じ原理らしい。
「眠くなるだけならいいですが、下手すると死にますからねー?魔力は生命力の根幹に紐付いているのですー。それが枯渇すれば、どうなるでしょう?」
それはもちろん、生命力が無くなれば死ぬ。僕達が生きているのは、それがあってこそなんだから。え、まさか僕ってずっと知らない内に、そんな危ない事をしていたって話?
「それにしても、半年足らずでよくもまあ、ここまで上がりましたねー。普通、こうまで無茶な訓練をする人はいませんよ?今のフェン君なら、禁呪位は一人で扱っても平気でしょうねー」
師匠の目が怪しく光った。エリクシルもまだなのに、そんな物まで教え込まれたら冗談抜きに死んでしまう・・・!土下座で何とか回避したけど。
採取した素材を試していると、ふと気付いた事があった。ただの思い付き、と言ってもいいかもしれない。その組み合わせを試してみたら、金色に輝くポーションが出来た。
「嘘だろ・・・?」
鑑定結果、エリクシル(偽)。(偽)というのが気になるけど、大きく一歩近付いた。後はここからどうやって精製していくか、という問題が残るだけだ。師匠が作った物との違いが、今の僕なら分かるはず。・・・多分、きっと、恐らく。分かるんじゃない、かなぁ?
「フェン君、もうすぐ一年経ちますが、進捗状況はどうですかー?」
考えられる限りの調合や、それに付随する実験を繰り返していると、唐突に師匠が現れた。
エリクシル製作に関しては、僕があの家にいる事は滅多にない。師匠が近くにいると頼ってしまい、自分にとっては良くない事だ、と思ったからだ。少し離れた場所に小屋を作り、そこに実験器具を揃える、という程度の事なんだけど。
「一応、近い物は出来ましたけど・・・。どうやれば完成形に持っていけるのか、まだ分かってない状況です」
そう、この数カ月はその状態で足踏みが続いている。どうやればいいのか、そしてその状態にはどうすればいいのか?その為の取っ掛かりが全く見えず、右往左往している。考えても分からないなら、聞きに行けばいい、とも思ったけれど、試せる事がある限りは全部やってからと思っていた。
「んー、なるほどなるほど・・・」
呟いたまま、師匠は外へと出て行った。直後、魔力の揺らぎを感じる。完全に様子を見に来ただけ、って事かな?
「まさか、一年であそこまで出来上がるなんて。私の場合、三年程は掛かったんですけどねー。楽しみじゃないですか、何処まで成長してくれるのか」
「近い内にあの化物達にも会わせましょう」と呟き、再度転移を行う。行き先は当然、行きたくも会いたくもない連中の根城。私でも躊躇うような怪物連中に、フェン君はどういった反応を示すんでしょうねー?