第十一話 プレゼント。師匠から・・・?
「フェン君、ちょっとこっちに来てくださいー」
買い物から戻って一週間、師匠はずっと部屋に籠もって出て来なかった。食事は摂っていたから、心配はしなかったけど。特に何かアイデアがあったわけでもないから、日課の製薬を続けていたある日。
「やっと完成しましたー。月日が経つのは早いもので、フェン君が来てから一年になるのです。私としては、もうちょっと成長してくれたらとは思いますが。イケイケ君の開発と亜空間魔法の習得、という点で合格点なのです。と言う訳で、記念品なのですよー」
無造作に渡されたのは、モノクルだった。でも普通のそれとは違って、ちょっと異質な魔力を感じる。レンズも透明ではなく、薄っすらと青みがかっていて、とても綺麗な品だ。
「フレームはキングバジリスクの骨、レンズはロイヤルサーペントの魔眼を加工して作製しましたー。私の魔力と上手く融和してくれたので、誰にも真似出来ない効果を持っているのですよー」
何を言ってるんだろう、この人は・・・?ロイヤルサーペントはこの前買ってきたやつだけど、キングバジリスクも確か絶滅種じゃなかったっけ?一睨みで殆どの生物を石化させるせいで、どの国でも最優先討伐対象に指定されていた。一国の騎士団が総勢で当たらないと倒せないって、どんな冗談だよと言いたくなる化物だった、とか何とか。まあ、それ以上の怪物が今、僕の前にいるんだけど。
「思考にプロテクトをかけても、表情で大体分かりますからねー?まあ、それは置いといて。ちょっと試しに使ってみてほしいのですー」
言われるがまま、モノクルに魔力を流す。と同時に、頭の中へ大量の情報が流れ込んできた。壁や天井を含み、視界にある物全てを構成する材料となる物の名称や物質強度が。そんな物、一個人が処理しきれる類の物ではない。激しい頭痛に襲われ、気を失いそうになった。
魔力量を抑えると、頭痛は治まっていった。目を凝らした辺りの情報だけが、集中して入ってきているようだった。
「魔力を最小限に絞れば、拡大鏡としても使えるのですよー。そういった特殊な加工法については、順次教えていきますね?」
・・・どうやら、また地獄の行進が始まるようだ。新しい技術を覚えるのは楽しい。けど、その教え方がかなり厳しいというか、無茶苦茶というか・・・。完成形と手順を一通り見せられて、じゃあやってみましょう!という感じだ。所々で助言はくれるけど、考え方の補助だけで、もう一度見せてくれる、というのはまず無い。作業手順は一回見せたらそれまでで、後は自分で辿り着いてほしい、という事だった。
とまあ、それは置いておくとして。このモノクルの性能は、一個人が持つ代物じゃない。適当に作った椅子で試した所、使用した素材の情報が余す事無く表示され、しかもおおよその耐久性まで見られるのだから。釘の材質を数か所で変えたのに、それさえもきっちり表記されていたし。威力を弱めた魔力弾で攻撃してみたら、予測耐久がゼロの所できっちり壊れた。これ、もし生物にまで適用されたら・・・?いや、考えるのはやめておこう。
鑑定だけでなく、探知としての使い方も出来た。探したい物を詳細に思い浮かべると、どの辺りにあるかを魔力感知で案内してくれる。薄っすらとした煙のような線が視界に現れ、その場所まで案内してくれるのだ。こんな物を買おうとしたら幾らかかるのか、考えただけで背筋が凍る・・・。