第十話 やっと本題
「いつかフェン君にも分かる時が来るのです。私はその日を、いつまでも待ち続けるのですよー。って、ここに来た目的を忘れる所でした。多分、あっちの棚に・・・」
言いながら、反対側の棚へ向かっていく。ぱっと見ただけでも、種類豊富な素材が並んだ棚だ。あ、太陽草と夜行虫の皮がある。処理も丁寧にされてるし、これは掘出し物の気配がするな。
「気付きましたか?ここの店主さんは、結構な技量の薬師か、それを抱えているようですー。魔力反応はこの辺りからなんですが・・・」
ちょっと背伸びして漁っている棚には、様々な動物系の素材が置かれている。ブラッドタイガーの皮やらホワイトスネークの舌やらの、特定危険種に指定されている変わり種の素材ばかりだ。
「あ、ありましたー。インキュバスの瞳ですかー。魅了の魔眼は使い勝手が悪いので、ちょっと微妙ですねー」
インキュバスは特定危険種の中でも、最上位危険種のモンスターだ。小国では対処する事が出来ず、周辺国家での合同討伐になるような、危険極まりない相手でもある。その分、出現率も低いんだけど。っていうか、探していたのは魔眼の素材なんだろうか?
「おいおい、贅沢言う嬢ちゃんだな。インキュバスの瞳なんざ、そう手に入る代物じゃねえぞ?使いこなせりゃ、魅了系の中でも一番の効力を持つんだからな」
「それは知っているのですー。ですが、消費魔力に対しての旨みが低いのです。対人ならばいざ知らず、魔獣相手に魅了では効果が薄いでしょう?私も魅了の魔眼は持っていますが、精神汚染位は追加で付いていないと、ただの無駄なのですー」
「複合型の魔眼なんざ、それこそ伝説級の存在じゃねえか・・・。そりゃ、黒龍なんかを討伐してりゃ、手に入るかもしんねえが。って、まさかその眼・・・?」
店主だろうか、店の奥から出たおっちゃんと師匠が話し始めた。黒龍は100年程前に大陸で大暴れしていたという龍王種で、人類の半数を死亡させたという伝説の魔獣だ。完全な討伐こそ出来なかったものの、封印には成功しており、今では聖堂騎士団と呼ばれる部隊がその維持を行っている。何でも神の加護を得た騎士のみで構成される、特殊な部隊なんだとか。
「流石に分かります?黒龍ほどではないにせよ、両目共に古龍種の魔眼なのです。その前提で聞きますね。何か他に、魔眼の類は置いていないのですか?」
師匠が持つ鑑定の魔眼は壊れた性能で、魔力の流れさえ見通してしまう。普通、鑑定魔法といえば対象の名称能力、素材や薬品ならその効力を見通すだけの物なんだけど。
「ははは、はいー!これがうちにある一番の魔眼です!」
師匠がニッコリと黒い笑顔を見せただけで、おっちゃんの態度は豹変した。いや、分かる。あの笑顔の前だと、そこらの龍種の方が可愛いもんだし。
「ふむふむ、ロイヤルサーペントの魔眼ですかー。状態も良いですし、何より持っている効果もなかなか稀少なのですね。これ、買っていきますねー」
ドゴンという音を立てて、カウンターに一つの革袋が置かれていた。中を見たおっちゃんは、何か変な物でも見たかのように震えている。あれだ、生まれたての子鹿みたいな震え方だ。
「金貨で四千枚入ってますー。ロイヤルサーペントなんて、今はほぼ絶滅した種ですし、その魔眼となればそれ位の金額にはなるのですよー」
水飲み鳥のように頷くおっちゃんを横目に、僕達は店を後にした。それにしても、何で今更魔眼を欲しがったんだろう?まさか飽きたからって付け替える気かな。・・・有り得そうで怖い。