第九話 安定と安心の駄目っぷり
悪魔を一発(文字通りの一撃)で封印した師匠。気付けば空間の亀裂まで消えていて、何も無かったかのように、静かな空気が戻っていた。いやはや、恐ろしい魔法があったものだ。抵抗不能の無詠唱結界からの、更に無詠唱魔法で封印されるなんて。というか、何であの規模の魔法を連射して平気なの、この人は・・・?
「私の魔力は、常人の数百倍近くあるのですよ?伊達や酔狂で299年も生きている訳ではないのですー。最近フェン君も生意気になってきましたが、これで見直しましたか?」
「正直、尊敬します。あれだけの魔法を創り上げたって事は、大抵の魔法は使えるって事ですし。まさか、熱核魔法なんかも使える、なんて言いませんよね?」
「さすがの私でも、それは詠唱破棄出来ないですー。神聖魔法程度なら、詠唱不要ですが。試してみますか?」
・・・聞いた僕が馬鹿でした。神聖魔法は聖属性の中でも最上級の魔法で、極めれば死者蘇生すらも可能に出来るという物だ。これを扱えるだけで司祭や神官になる事が出来る上に、将来困る事は無い位の収入が約束される。僕?使えるわけがない。
熱核魔法は特殊な物で、それに類する魔法は一種のみだ。魔力制御がかなり厳しく、単独で成立させられるのは著しく困難という熱核破壊光線がそれに該当する。
この魔法、一応は教典に存在が確認されている。でも誰も扱えず、しかも歴史上で使われた形跡は無い。何せ、発動させれば一瞬で都市が一つ消し飛ぶような魔法規模だ。使われていれば、何処かしらでその痕跡が分かる、という代物らしい。───記載されている術式から解読された規模の為、もしかしたら間違っているかも、とは言い訳されていたけど。
「あれは欠陥だらけの魔法ですからー。造った本人も、やたら規模がでかいだけで、実戦じゃ使い物にならん、とボヤいてました。味方も巻き込むような超広域魔法じゃ、戦争には不向きですしねー」
「やっぱり、知り合いですか・・・。類は友を呼ぶというか、何というか。因みになんですが、その人は今?」
「鬼籍に入ってますよー。200年程前に魔法体系を纏め上げた人でしたが、とても優秀な魔法使いでした。今大抵の魔導学院で使用されている教本は、その人が書いた物ですしー」
凄い人だな・・・。逆に考えると、200年間魔法に関しての研究は、殆ど進歩していないという事か。嘆くべきなのか、その人を敬うべきなのか悩む所ではあるけれど。
「で、そんな人を知っている師匠は、あんなトンデモ物質ばかり作り出す、と。どうしてそうなったんだか・・・」
「何か引っ掛かる物言いですが。まともな研究開発は、そこらの連中がやっているのですよー。私としては、そういった物から新技術や発想の転換という物が生まれると、そう信じているのです」
無い胸を反らせて、偉そうにふんぞり返る。開き直りの極地と言ってもいい。駄目だこの人、早くなんとかしないと・・・。