プロローグ
誰かが言った。村の奥にある、深い森の中には世界最高の賢者が住む、と。また別の誰かが言った。何故か何処から入り、適当に進んでも同じ場所に戻される、と。
迷宮の森。そう名付けられたそれは、天然の要塞だ。偶然にも木の生え方が魔法陣の体を成していて、しかも方向認識阻害、という稀有な魔法を構築しているのだから。まるで、誰かがそうなるように仕組んだかの如く。
「森の賢者様、ね。いっちょ弟子入りしてみますか!」
正直に言って、僕以上の魔法薬師は、この国にいないと思っている。エリクシル───不老不死の霊薬───は流石に無理だけど、手足の欠損を治療する程度の物を作る事は、僕にとって呼吸するよりも簡単なのだから。
究めた、と言っても過言ではないと思う魔法薬技術以外に、そろそろ新しい知識が欲しい所だ。可能なら、僕が次代の賢者になる、という欲を出すのは、まあ不相応かもしれないけど。
「認識阻害なら、これで十分かな?」
カバンから取り出したのは、森寄せの薬。森林と一体化して、迷い難くするのと同時に、その土地固有の獣から察知されなくする、という物だ。自然発生した阻害系統の魔法なら、これで十分誤魔化せる。因みに、結構高い。これ一本で、一般的な親子三人の家庭なら、一ヶ月は十分に暮らせる値段だ。僕は五分もあれば、十本は作れるんだけど。
この手の薬は材料費が大半を占めるし、素材が採れる魔獣は強さだけなら、そこらの正規軍が何十人と集まって、ようやく討伐出来るようなのばかりだ。そこらの薬師だと、他の使い道が分からないだろうから、自然と高値になるんだろうなー。
「そろそろ森の中心だと思う、んだけど・・・。」
一時間も歩いたか、地図で見た限りでは、もう中心部に近付いているはずだ。見てきた感覚からだと、近付かせたくないのは、森の中心部。偶然か故意かにかかわらず、中心へ向かう人を全て外縁部へと戻すように、魔法陣が組まれていた。つまりその方角に、見せたくない何かがあるという事。・・・引っ掛けで、実はこっちでしたー、なんて事が無い限りは。
「あ、見えてきた。あれがそう・・・かな?」
規則的に生える樹木の間に、明らかな人工物が見える。黄色いレンガで作られた屋根、そして所々で色が違う壁。遠目で観察した限りだと、素材の年代が違う。壊れでもしたんだろうか・・・?ちょっと嫌な予感がするのは、気のせいと思いたい。