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2章ー17

 ピィイィイ!!


「プレイ!」


 第7ゲームの開始。真子のサービスからスタート。安定したトス。見本のようなフォームでサーブを放つ。だが、


「くっ!」


「ラヴ・15!」


 ポイントを手にしたのは実。それもリターンエース。どうしても打ち返せない。真子は自身に苛立ちを覚える。しかし諦めず次の手を思考。だが思い浮かばない。そう、本当は解っているのだ。自分は打ち返す気なんてないのだ、と。


「くっ!」


「ラヴ・30!」


 真子が最も苦手なもの。それは努力や根性。理由は暑苦しいから。性に合わないから。だから真子は絶対に熱くならない。何事も中途半端にこなしてきた。でも、真子はそれを破ろうとした。だからだろう。こんなにも身体が重いのは。こんなにも辛いのは。


 なら、終わりにしたい。


 そして、真子はいつものように考えた。嫌な事からは逃げ出せばいい、と。


「ふっ!」


 球を放つ真子。相変わらずの奇麗なフォーム。だが瞳はやる気を失っていた。もう限界だったのだ。頑張る事も。夢中になる事も。だからこれでいい。このまま適当にやり過ごせばいい。負ければいい。真子の弱い心はそう考える。そして、真子はもうそれを否定などしない。ただそれに従い敗北に向かうまでだ。


「ラヴ・40!」


 いつもの変わらない美子のカウント。それが悲しい声色に聞こえた気がした。真子はなんとなく審判台を眺める。そこにはどこか寂しくも見える、美子の横顔が見えた。


「ふっ!」


 真子はその表情に見覚えがあった。確か最近の事だ。でもモヤがかかった感じで上手く思い出せない。真子はぼんやりと球を見つめながら物思いに耽る。もはや試合など興味のない様子で、


 いつだったかなぁ。


「ゲーム実 スリーゲームtoファイヴゲーム!」




「真木」


 第7ゲーム終了。結果、実の圧勝。真子のプレーに苛立ちを募らせた美子。いけないと解りつつも、コートチェンジ中の真子へと詰め寄る。いかにもご機嫌斜めな様子で、


「さっきの試合なんなの? やっぱどこか調子悪いの?」


 その表情は責めるようであり、心配しているようでもある。真子は言葉に詰まり曖昧に、


「ううん……そういうわけじゃないけど」


「じゃあ、なんなの? なんであんなふざけた試合をしたの?」


「……ごめん」


 美子の気迫に怖じ気づく真子。試合に飽きた。そう正直に答えることなど出来ない。だからなんとなく謝ってしまう。すると、美子はどこか遠い目をして、


「そう……あんたも変わらないわね……」


「美子?……」


 不思議に思い問い返す真子。だが美子は応えない。背を向け審判台へと去っていく。その後ろ姿はとても寂しくみえた。




 ピィイィイ!!


「プレイ!」


 ああ、そうか。思い出した。


「15・ラヴ!」


 あの時と同じなんだ。あの大会の時と。


「30・ラヴ!」


 第8ゲーム。またも実の圧倒的優勢。真子は辛うじて球を返している程度。上の空で試合に挑み、再び物思いに耽る。そして思い出す。夏の大会。美子とダブルスで出た時の事を。あの時もこんな感じだったな、と。そう初めは快調だった。だが、相手にワンゲームを獲られた。それがきっかけ。狂いだす二人のチームワーク。調子を取り戻した相手ペア。結果、真子達は逆転負け。終わってしまった夏の大会。確かスコアは4・6だった気がする。だがはっきりとは解らない。あの試合の後半の事を、真子はあまり憶えていないから。


 いや、違う。思い出したくないだけなんだ。だって、


「40・ラヴ!」


 私は嫌な事から、いつも逃げ出しているから。


「ゲーム実 スリーゲームtoファイヴゲーム!」


 徐々に縮まる二人の点差。美子はさらに苛立ちを募らせる。しかし美子は審判。真子にアドバイス等は出来ない。それに今の真子には何を言っても無駄だろう。歯がゆい思いを感じながら、美子は仕方なく第9ゲーム開始を告げた。


 ピィイィイ!!


「プレイ!」


 第9ゲーム。放たれた実のサーブ。球速のあるフラットサーブだ。安定した軌道でコートへと迫る。全力でも打ち返せるか解らない速さ。でも、それはもう真子には関係ない事だ。だって、真子は既に勝つ気などないのだから。


 本当は動けると思う。それもたやすく。


「15・ラヴ!」


 でも、それを止めるもう一人の自分がいる。


「30・ラヴ!」


 何を熱くなってるの? って言いながら私を引き止める。


「40・ラヴ!」


 だから甘えてしまう。自分の弱い心に。だから打ち返せない。本気で動こうとしないから。だから、




「動けぇえぇ!! バカ真子ぉお!!」




「ッ!!」


 突然の大声。発したのは美子。真子はハッ、となり正面を見据える。そこには実の放った球。いける。今飛び込めばまだ間に合うはずだ。真子は嫌がる心を動かし、球へと飛び込む。


「とどけぇえ!」


 間一髪で打ち返した真子。しかし焦ってスイングしたため、球は低い軌道を描く。そのままネットへとぶつかる。だめだ。入らない。そう考えた真子。だが、球はネットとぶつかり大きく跳ね上がる。そして実コートへと力なく落ちていく。ネットインだ。

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