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恋の過去

「という訳でここにある、種を植えようではないか!お父さんにナスにトマト、枝豆にトウモロコシ……たくさん種を貰ったからね。一人じゃ大変だから手伝ってくれるかな?」


嬉しそうに俺に話しかける、ショートボブ童顔の女の子は赤井恋(あかいれん)。子犬のように人なっこい、俺の記憶喪失の幼馴染だ。

……このタイミングで恋の容姿に関する描写を入れたのは決して、プロローグで、忘れていたからではない。断じてない。えっと……すみませんでした。


「もちろん良いけど、本当にたくさんあるな……。野菜だけじゃなくてハーブもあるじゃん!」


「うん、ハーブティーとか飲みたいね。あぁ〜、収穫が楽しみだよ〜」


そんなことを話ながら俺と恋は畑に種を植えた。本当に収穫が楽しみだ。作業の途中に恋にこんな事を聞いた。なるべく軽い感じで違和感を出さないように。そう意識した。


「なあ、恋。お前ってさ、記憶喪失じゃん。それでさ……恋は……自分自身の記憶を取り戻したいって思うときあるの?」


恋は少し難しそうな顔をしてから笑顔でこう言った。


「うーん、記憶を取り戻したいって思うときは確かにあるよ。でもさ、ボクはそれ以上に今を楽しく生きたいんだよ。過去にボクがどんなことを経験したのか、それを知るのは後でもいいかなって思っちゃうんだよね。……記憶喪失失格かな?」


「……そんなことないと思うよ。変なこと聞いてごめんな」


その後も俺と恋は他愛のない会話をしながら、作業を進めていった。時折吹く四月の風の優しさが身に染みた。さっきの恋の言葉に違和感を感じたがその理由がなぜなのかは分からなかった。


作業を終え、恋と別れると俺は自宅に帰った。家族に「ただいま」と言い。風呂に入り、夕食を食べ、学校の課題を終わらせ、ベットに寝転がった。さっきの作業が余程疲れたのか、気がついたら寝てしまっていた。




ここはどこだろう……?そう思い、周りを見渡すとコークリートでできた校舎と木造の校舎があった。その校舎の反対側には桜の木があって、木の下では小さな女の子が不安そうな顔をしてうろうろしていた。

するとひとりの男の子がその少女のことに気がついて桜の木の下に走っていった。入学式だったのだろうか、黒い服に身を包んでいた。


そして、少年は少女に話しかけた。


「どうしたの?」


少女は少年に震えた声でこう言った。


「なんでもないよ、だいじょうぶだよ。」


少年は幼いながらに目の前の少女が明らかに大丈夫ではない事が分かったようだった。でも、少年はどのように少女に話しかければ良いのか分からなかったみたいだった。ただ少年は少女のことを可哀想だと思ったらしく、ずっと少女の前にただただ立っていた。


しばらくすると少女は少年に、しゃくり上げながらこう聞いた。


「どうしてあなたはわたしのことをしんぱいしてくれるの?」


少年は迷わず答えた。


「きみのことがほっとけないからだよ。だって、きみはこまっていたじゃないか。なにかあったの?」


少女はまたしゃくり上げそうになる声を抑えて、


「……おかあさんとおとうさんがいなくなっちゃったの」そう答えた。


少年はなんだそんな事かという表情をして少女を励ます。


「じゃあほら、おれがいっしょにさがしてあげるよ。いっしょにさがそう!」


少女は複雑そうな、悲しそうな顔をして少年に


「ぐすっ……。ううん、ちがうの。おとうさんはこうつうじこでしんじゃった……。おかあさんはわたしのことをおいてどっかにいっちゃったの。わたしがわるいこだからかなぁ……」と言った。


少女は泣いていた、少年は困った表情をして少女の背中をさすって少女が泣き止むのを待ち続けた。少年は終始、


「ごめんね、ごめんね。おれがどうにかしてあげるから」そう言い続けた。


少年にもどうにか出来ることでは無いことは分かっていただろう。それでもただ、少女のことをなだめた。

少女はしばらくしてから落ち着いたようで、

少年にお願いした。


「ぐすっ……。じゃあわたしとともだちになってくれるかな?」


少年は申し訳なさそうな顔をして、


「もちろん、いいけど……。でもきみはおかあさんとおとうさんにあいたいんじゃないの?」そう尋ねた。


少女は少し迷った顔をしたが、すぐに笑顔を作った。


「ううん。わたし、おかあさんとおとうさんのことほとんどおぼえてないんだ……。すこしでもいいからおぼえておきたかった……。

でもね、それよりもわたしはきみとともだちになりたいの。わたしは、あかいれん。よろしくね」


すると少年は喜んだ。少しでもいいから、お母さんとお父さんのことを少しでも覚えておきたかったという少女の言葉が気になったのかも知れないでも、友達になろうと言ってくれたことが嬉しかったようだ。


「ほんとうに?よかったぁ。おれは、ささがきりょうた。よろしく」


ふたりのいる桜の木はとても綺麗に散っていた。少年が笑顔になると少女もさらに笑顔になった。




アーラム音がなる。朝が来たようだ。夢の内容を思い出しているうちに、ぼんやりと意識が回復してきた。それと同時に分かったことが2つあった。1つはさっきの夢が俺と恋が始めてあった時のことであること。もう1つは昨日、恋の言葉に違和感を感じた理由だ。


恋の実の父親はもうこの世にはいない。その事実は恋が記憶喪失であろうとなかろうと変わらない。交通事故でなくなったそうだ。まだその時、恋は6歳。一人での子育ては厳しかったのだろう、それを負担に感じた恋の実の母親はあろう事か2歳の娘を当時住んでいたマンションに置いてどこかに行ってしまったそうだ。

マンションの管理人さんが「おかあさんー!!」と泣く恋の声に気づいて保護し、

恋の母親に電話したがコールさえもかからなかったという。俺は恋の母親のことが許せなかった。

いくらなんでも、小さな自分の娘を捨てることはないだろ、と。その思いは時が経つに連れ強くなっていった。


親のいなくなってしまった恋は施設に預けられ予定だったが、そこに恋のことを引き取ってくれる夫婦が現れた。北原さんという方で優しい人だ。


恋はそのことをスゴく喜んだ、実の親がいなかったことが寂しかったのだろう。その後も北原さんたちとは上手く接することが出来て、お父さんお母さんと呼んでいる。


記憶喪失になる前の恋は俺たちが出会ったあの日から時間が経っても時々、実の父親の事を少しでも覚えておきたかったと言っていたし、あれだけ酷いことをされた母親の事さえも少しでも覚えておきたかったと言っていた。その上、生きているなら会ってみたい、とまでも。


しかし、昨日恋は「それ以上に今を楽しく生きたい」といっていた。記憶喪失になる前の恋は、過去と未来のことを両方、重要視していた。そこに違和感を感じたのだろう。


いくら容姿が一緒でも、声質が一緒でも、

俺が愛した「赤井恋」ではないのではないだろうかと考えてしまう。記憶喪失で記憶ない恋は俺が彼氏であることを忘れている。こんなの片思いでは無いのだろうか……。結論は出ないうちに登校する時間になってしまった。この事についてもいつか結論を出さなければならないのだろう。


朝日が眩しい、今日も新しい1日が始まる。


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