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プロローグ

 「放課後、ボクの家の畑に来てほしい。詳しいことはそこで話すから。よろしく。   赤井あかい れんより」

 

 このメールを確認したのは午後4時30分のことだった。MRもとっく終わり、多くの生徒は帰路に着くなり、部活に励むなり、バイトに勤しむ時間帯である。


 時間は有限ではない。しかしその時間をどう使おうとも個人の自由だ。そして時間は全ての人間に対して平等である。当たり前だがこの手紙に記されていることを従うのにかかる時間も俺のものでもある。もう一度、言わせてもらうが「時間をどう使おうとも個人の自由」なのだ。この時間をどう使うのかも、俺の自由なのだから俺の意思がないにも関わらず、わざわざこの手紙に従う必要もないのではなかろうか……。


 そんなことを考えながらも、俺はアイツの家の畑に歩を運ばしていた。恋の家は俺の家からもそう遠くないし、登下校の時に毎日通り過ぎる。なにより、恋のことが心配だった。あんなことがあった後だ。もしかしたら……と最悪のケースを考がえてしまっていた。俺が畑に到着すると恋は意識の低そうなジャージを着て、何やら作業していた。

 

「遅いよ~、笹垣良太ささがきりょうた。待ちくたびれたよ早く作業を始めてよ」


「いきなり、人のことを呼びだしてそんなこと言うなよ!心配したよ」


「ごめんごめん、ついつい良太には強く当たっちゃうんだよ。なんたってボクは君のことは忘れたことがないからね、思い出とかは別だけど……。でも君という存在自体は覚えてるんだよ、確実に。君がボクの幼馴染だってこともなんとなくだけど覚えてる……。ってあれっ、ボクなにか心配させるようなことしたっけ?」


「いいよ、気にするな。それよりどうかしたか?」


俺は恋から話を聞いた。家庭菜園を始めようとしていること、水やりは俺と恋が日替わりでやること……内容はそんなかんじだ。


こうやって話していると小さい頃の恋を思い出す。恋は感情豊かな明るいヤツだった。いつも、俺の後ろをちょこちょことつけてきて、無視すると分かりやすく拗ねて、人恋しくなると甘えて……。


何となく今の会話から分かるかも知れないが、恋には過去の記憶がほとんどない。正確に言えば、恋は過去のことを忘れてしまっている。記憶喪失なのだ。


それでも、俺のことは忘れなかった。恋が病室のベットで意識を取り戻したとき、確かに俺の名前を呼んだそうなのだ。自分の名前さえも覚えていなかったのに。なんで恋が記憶喪失になってしまったのか俺には分からない。俺は恋の親に恋自身に何があったのか教えることを勧めた、恋の親もそのつもりだったらしくて、恋に「赤井恋」という名前と自分たちが親であることを教えた。


しかし、医師からそれ以上の事を教えることを止められた。医師によると記憶喪失を起こす要因はたくさんあって、恋の場合は強い精神的なショックを受けたのが要因らしい。この場合、恋が記憶を取り戻したから「はい、終わり!」という訳にはいかないくて、記憶を取り戻したショックでパニック状態に陥ってしまう可能性があるそうだ。


「恋さん自身が記憶を取り戻すまで待ちましょう」


医師は恋の親にそう言ったらしい。恋の親は俺のことをよく知っている。性格も恋との関係性も。だからこそ、俺に恋がなぜ記憶喪失になった理由を話そうとしないのだろう。


 だって俺は、恋の幼馴染であり、同級生であり、親友であり、

――――――恋人だったのだから。


                                     

 

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