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補欠勇者の苦心  作者: 吉良 善
9/23

コンビネーション

「デスゾルカよ、一つ確認するが…」

「何だ!」

平時に道を行くかの如く無造作に前に出て

隣に並びつつ声をかけてきたアルシアに、

左手の親指で黒き魔剣の鍔を押しながらゾルカは雑に応じた。

その目は襲撃者たちの挙動を鋭く睨み、

抜刀の頃合いを計る。

「我らは何も事情を知らないが、

 あの連中を倒すということでいいのだな」

「あんな大人数で街の中を疾走しながら

 斬りかかってくる人たちが善人側だったらびっくりだよ俺!

 いいのいいの、どう考えてもあっちがやばい奴ら!

 俺の勇者直感、略して勇感がそう言ってる。

 でも命は取るなよ」

「フン…

 聞こえはいいが、傲慢な物言いだな。

 命をかけ挑んでくる者を見下した言だ」

「ちょっとキミひねくれすぎじゃない!?

 事情を知らないからいきなり殺生はまずいよねって

 言ってるだけだよ!?」

「どけっ、ボンクラっ」

「痛え!

 その上なぜついでに罵倒していく!?」

アルシアと言葉を交わしていたゾルカを突き飛ばして、

槍を構えたリリィベルが前に出る。

急いで追おうとすると、同じく妹に続こうとしたアルシアと

肩がぶつかった。

「ちょっ…

 リリィベルさん、強引に前に出るんじゃ…

 こらっ、同時に全く同じ方向へ動こうとするなよアルシア君!

 これじゃあ動きにくくて…

 俺の活躍がっ…」

もつれ合いながらわちゃわちゃと進むゾルカたちの様子に、

ジレは口を半分開いて呆れた。

「おい、あの勇者殿たち全っ然ダメだぞ!

 チームワークも譲り合いの精神もゼロだ」

「だから言ったんですよ、ジレさんご自慢の慧眼は

 全くあてになりませんって。

 もちろん僕は一度として心に留めたことはありません、

 胸の中に無駄なスペースを取りたくないですから」

淡々とした調子で答え、カムは両端どちらにも口のある鞘に

それぞれに納められていた二つの剣を抜き放ち滑るように駆け出した。

「毒舌とかじゃないよな。

 もう悪口だろ、今の」

耳が痛いことを言ってくれる存在は貴重である。

ジレはカムについてそう思っているし

カムの方も心の底では自分のことを尊重してくれていると思っているが、

どこかにただならぬものも抱いていそうで

そういう意味では戦々恐々としてもいる。

隔意なく語り合える、最も信頼する男の変わらぬ態度に

笑みを浮かべ、ジレは彼の後に続いた。

「ああ~、やりづれえ!

 二人とも、仲間の思考とか動きとかも考慮して行動しろよ!

 ゾルカフォーメーションで戦えよ!」

一方、ゾルカは仲間(であるはずの者たち)に向かって

訴えていたが、彼らの芯には届いていなかった。

「ゾルカフォーメーションとは何だ。

 想像するにろくなものではなさそうだが」

「流れるようなコンビネーションで攻防ともに隙の無い戦いを見せる

 シンプルかつ美しい隊形だよ」

「流れるように動くためにはお前が邪魔ね…

 少し後ろに下がっていてくれない」

「そんな無体な要求をよくもはっきりと言えたもんだよね!

 …ん?」

アルシアとリリィベルに爪弾きにされながらも

襲撃者を迎え撃つ態勢のゾルカは、

すぐ後ろでスカーレットが何かをしようとしていることに気づいた。

彼女の手の中では、あの趣味の悪いマイクが黄金の輝きを放っている。

マイクを構えた姿はさすがに様になっているが、

一体何をするつもりなのか。

「今…

 私はあなたたちの胸に、心に問いかける…

 無辜の人々が行き交う市井、無垢の幼子が見つめる中で、

 その手を血に染め、この道に血を流すことが本意なのかと。

 融通無碍な一個の人間に戻って、あなたたちも自身に問いかけなさい!

 さあ、今すぐ改心して立ち去るのよ!」

スカーレットは、襲撃者たちを指差しながら感情を込めて朗々と

語りかけた。

が、その指先を向けられた者たちには何の変化もない。

「何も起こらないじゃない!

 衆目の前で恥をかいたわ、不良品なんじゃないのこのマイク!

 それとも、不良なのはあなたたちの仕えるお方の力かしら!?」

「言えば何でもそのとおりになるわけじゃない!

 人を改心させて追い払うなんて込み入った効果、

 魔法やアイテムで何とかできるかっ!」

怒り出した短気なスカーレットに、

こちらも気の短いリリィベルが怒鳴り返した。

どうやらスカーレットは例のユーギルのマイクの力を発揮させて

敵を追い返そうとしたらしいが、要求に無理がある。

ゾルカもそう思った。

「いきなりそんな徳の高い奇蹟を望んじゃいけないんだよ、

 スカーレット!

 もうちょっとわかりやすく、炎とか雷とかを出して

 そのマイクの力を確かめてごらんなさいよ」

「わかりやすい効果ね、なるほど…

 雷、どーん!」

「ぐおおッ!!」

スカーレットの指から発された小さな雷は、

ふらふらと飛んでゾルカを撃った。

なぜだかなつかしい感覚にとらわれながら

ゾルカは斬りかかってきた敵の剣を抜き打ちで弾き、

峰打ちにして倒した。

「出た!

 雷が出たわ!」

「その雷の結末を見てなかったの君!?

 何でミラストラに来てまで味方の雷をくらわなきゃならんのだ!

 セリフを適当にしたせいだよ絶対!」

「ちょっとめんどくさくなって…」

「向いてない!

 そのマイクを使う者として向いてないよ!」

そうこうしている間に、襲撃者たちは全員倒れていた。

ゾルカが一人、アルシアとリリィベルが二人ずつを倒す間に

カムと呼ばれた若者が見事な双剣の技で残りを片付けていたのである。

死者はいない。

一応、ジブリス兄妹もゾルカの方針に従ったようだ。

「やあやあ、助かったぜ諸君…」

「ジレさん、行きますよ!

 新手が現れたら面倒です」

右手を挙げながら陽気にこちらへ歩み寄ろうとしていた

ジレの腕を引っ張り、彼を引きずるようにして

カムは遠ざかっていった。

ゾルカはぽかんとして二人の姿が小さくなるのを眺めていたが、

「我々も連中が目を覚ます前に立ち去るべきだろう」

というアルシアの言葉にうなずいてその場を離れることにした。





しかし程なく、彼らと再会することになった。

「何か騒ぎが起きているみたいね」

スカーレットが示す先には、人だかりができている。

何事かと様子を見に行ってみると、

ジレとカムがいかにも柄の悪い連中を相手に

大立ち回りを演じていたのである。

「また!

 何やってんのあんたたち!?」

野次馬の最前列に出たゾルカが上げた声にジレが反応して、

「こいつらが露店に不当なみかじめ料を要求していたんでな!

 従って、見つけ次第やめるまでブッ飛ばーす!」

そう答えながら相手の一人に強烈な拳を叩き込んだ。

ジレの背中を守るカムは、やれやれという表情を浮かべている。

実力自体は二人の方が明らかに上だが、

相手の数が多いのでゾルカは再度加勢することにした。

その耳に、野次馬の中の女性の声が届いた。

「…ねえ、あれってレッジ様じゃない…」

それがどういう意味なのか、彼にはわからない。

とにかく、まずはこの騒ぎを収めるのが先だ。

「そこのどさんぴんども、勇者は勝ーつ!」

雄叫びを上げて、ゾルカは駆けていく。

その姿を、アルシアとリリィベルは腕を組んで眺めていた。

このままにしておくと、動こうという気は毛頭なさそうである。

「何だ、またやるのか?」

「わたくしたちがなぜ、いちいち手助けをする必要がある。

 そんなことのために行動しているわけではないわ」

「いいから行って行って!

 あなたたちの将がすでに突撃しているんだから」

スカーレットが促すと、兄妹はいかにも億劫という顔つきで

しぶしぶ歩いていった。

小さく息をつきながら、スカーレットはジレの姿を目で追う。

彼女にも、聞こえていた。

女性が口にした、レッジ様というのはおそらく彼のことだろう。

そうだとすれば、様などと呼ばれる彼は一体何者なのか。

先程襲撃を受けたのも、そのことと関係があるのだろうか…

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