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補欠勇者の苦心  作者: 吉良 善
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決意

ある人物を討つ。

それが、ユーギルがゾルカに成してほしいことだという。

「でも、ユーギルさん…

 俺、一応エルトフィアでは魔王と戦った男なんだけど…

 そんな暗殺者みたいな仕事どうかなって…」

「あなたがその気になれば簡単なんじゃないの?」

スカーレットが言葉を向けたのは、困惑している様子の

ゾルカではない。

どこかから声を届かせている魔の神の王、ユーギルだ。

「神の世界の王様の一人でしょ?」

『…』

「…どうして答えないの」

「おい…余計なことを尋ねるな」

後ろで片膝をついていたリリィベルが言った。

だが、スカーレットはレポーターである。

聞きたいとなったら聞きたいのだ。

「あなたたちもそう思わない?

 なぜわざわざ別の大陸からゾルカ君を来させて、

 そんなことをさせようというのか。

 大きな力を持つ神様なら『お前など、こうじゃ!』とか言って

 何とかできそうじゃない」

「…かっ…神は、そういうことはしないのだ。

 そんな横暴なやり方は」

「…スカーレット殿、」

妹に代わって、アルシアが抑えた声で呼んだ。

スカーレットは、眉をひそめながらも彼の方を向いた。

「…あなたはユーギル様に関する神話を聞いたことが

 あるのでしょう」

「あるけれど…」

「…その話の結末を思い出していただきたい。

 思い出したら、察していただきたい」

「結末って…

 あっ…」

頭の中で神話を思い浮かべ、スカーレットはようやく納得した。

その神話とは、神々の戦いを描いたものだった。

光と闇の軍勢が長く激しい戦いを繰り広げ、

最終的には光の神の王が己の血を大量に使い聖剣を生み出し、

大地や海、魔剣もろとも魔の神の王を斬り裂いて勝利する。

つまり。

「もしかして、昔やられた時の傷がまだ治っていないということ?」

「…察してくださいと言ったのになぜわざわざ口に出すのです」

神話が実際にあった話で、ユーギルはエウリスに倒された。

それからどれだけの時が流れたのかわからないが

未だユーギルの傷は癒えず本来の力も戻っていないので、

自らは動くことなくゾルカたちに話しかけてきているということだろうか。





「…ユーギルさん、さっき自分のことを

 “常闇の褥にて永き時を越えし者”とか

 風流ぶった言い方してたけど…

 要するにどっかでずっと寝てるのね?」

そのゾルカの問いには、ユーギルは答えなかった。

先程のスカーレットにもそうだったが、

どうも気に入らない質問には答えてくれないようである。

ならば、重ねて尋ねたところで徒労に帰するだけだろう。

ゾルカは、早く話を進めようと考えた。

「…じゃあユーギルさん、詳しい話っていうのを…」

『いいだろう…

 なぜ、討つべき者と言ったかを話そう。

 ミラストラと呼ばれるこの地で、我が友ワズラグが襲われた。

 一度眠りから覚めた時にそういう報告を受け、

 またそれが事実であるらしいと知った』

「ワズラグっていうのも神様ですか?」

『いかにも…』

「何か、リリィベルさんに強要された闇の色の魔剣の名前に似てるな…」

『さもあろう…

 その名が元になって名付けられた者である』

「なるほど…」

『不遜にも神を罠にかけ、殺めようとしたのだ。

 ワズラグの安否は不明である…

 我は、我に仕えし者に事の経緯を探らせたが、

 何者かに消されてしまった。

 だが、このままにはしておけぬ。

 今、アルシアとリリィベルという優れた若者を得たが

 二人だけでは不足であろう。

 そこで、汝を送り込むことにしたのだ…』

「そこで俺ェェェ!?」

『我の刃を見事操り、魔王と呼ばれた者を打倒した汝は

 まさに一騎当千、剛勇無比の英傑であるゆえ…』

「…一騎当千?

 剛勇無比?

 そっ…そうですか?

 俺、英傑?」

口元を緩ませるゾルカ。

彼は、この手のおだてに弱い。

スカーレットは、呆れたような視線を向けた。

「…操られるのはゾルカ君の方になりそうね…

 私、ユーギルって怖い神様のイメージだったけれど、

 全く違ったわ。

 口がうまいったら…」

「ふふん…優れた若者と言っていただいたぞ、兄上…」

振り返ると、リリィベルもにやけていた。

確かに、ユーギルはジブリス兄妹のこともさらりと褒めていた。

ゾルカにしろリリィベルにしろ、ユーギルもここまで

効果があると思っていただろうか。

『エルトフィアの英雄デスゾルカ・レビよ…

 我が友が逢着した禍の顛末、そしてそれを引き起こした咎人を明らかにし、

 必要とあらば討ち果たしてほしい…』

「本当に非道な手段で神を殺そうとしたのなら許せん、

 英雄としては!

 この勇者デスゾルカが見つけ出して、正義の鉄槌を下してやるぞ!

 英雄として」

「…勇者の前に付けるべき言葉を忘れているんじゃない?

 ゾルカ君」

「しーっ、言わぬが花ってやつだよスカーレット!

 ここはミラストラなんだから!

 言わなきゃ誰もわからないんだから」

「…それが勇者様のセリフ…?」

スカーレットは、再び呆れた。

彼は、やはりまだ自分が受けた称号を少しの引け目もなく誇りとして

受け入れるところまでは至っていないらしい。

が、魔の神の王の依頼を全面的に信用して行動するほど

迂闊ではなかったようだった。

「ただしだ、ユーギルさん!

 その犯人を探し出せたとして、俺がどうするかは俺自身が判断する。

 今ここで犯人を討つとは断言しない。

 何があったのか、どういうことなのか知った上で、

 俺は自分なりの結論を出す!

 それでいいか」

『それでよい。

 我は汝らをミラストラに送ったことで残りわずかな力を使った、

 再びしばしの眠りにつく。

 後はジブリスの兄妹に尋ねるがよい…

 デスゾルカよ、協力を承知してくれたことに改めて礼を言うぞ…』

「…よく言うよね…

 魔王との戦いの時、

 “協力してくれなかったらエルトフィアに災いもたらしちゃうかもよ”

 みたいな感じを匂わせたくせに…」

『今言ったように、我の力は残りわずかだった…

 災いをもたらすことなどできぬ…』

「だましたの!?」

『それでは、諸君…

 健闘を祈る』

都合の悪そうなことには一切答えず、ユーギルの声は聞こえなくなった。

かの神が眠りにつけば、エルトフィアに帰る手段は今のところない。

ミラストラの住人であるジブリス兄妹の力を借り、

ユーギルからの依頼を遂行するしかなさそうである。

スカーレットは、渋い顔で宙に視線を向けていた。

「何だかかなりいいかげんな神様みたいだったけれど、

 私たちエルトフィアにちゃんと帰れるんでしょうね…」

「やることをやったら帰してくれるでしょ、多分…

 でなかったら、あの子を頼るしかないよね…」

前述の魔導士の少女のことであった。

彼女はミラストラに行くと断言して、

それを実現させうる手段を見つけたようだったが

実際にこちらに来られたのかどうかは当然わからない。

とはいえ、もしユーギルがゾルカらを故郷へと帰してくれなければ

ゾルカの言葉どおりになるだろう。

その際には、件の少女が帰る気になるまで待つことになりそうではあるが。

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