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食べちゃイヤ!  作者: 紫陽 圭
9/17

11月はすれ違い (裏)

**********


はぁ~~ぁ(溜息)。



 ───いつもの酒場、ただし、最近恒例の俺からのオンへの報告は今日は始まらない。


「いきなり溜息かよ。 今度は声を掛けるのを我慢したのか?」

「違う。 会えてないんだ。 2回目が約1カ月、3回目が約3カ月の間隔だったから、8月か10月に会えるかもって思ってたのに……。」


 まず俺が溜息をいたからか、今回は苦笑だけでオンが言う。



「9月末までに会えなかったなら、春先までに会える確率は低いな。」

「?」

「彼女は羊族なんだろ? 種族についても考えろって言っておいたよな?」


 オンの言葉に首を傾げると、予想外の質問が来る。


「あ、9月に髪を切った後は羊族の村で───」

「そういうことだ。」


 彼女と当分会えないかもしれない? 思わず思考が止まる。



「なんだよ、気付いたことを話したくて探してたんじゃないのかよ?!」

「……違……う?!」


 思考停止中の俺の耳に、オンからの次の質問が届く。 それは前のと似たもので、それでも俺は答えられなかった。



「あぁ、そうかよ、しかも疑問形か。 じゃぁ、何のために探してたんだよ?」

「え……?」

「このトーヘンボク!」


 それならとばかりに、似ているようで異なる質問が来る。 俺はそれにも即答できなくて……。

そんな俺にまた『アホ』と言ってくるんだろうと思ったら、『トーヘンボク』が先に来た。

いや、頭をはたかれるのは同じだし、『アホ』と言われたいわけじゃないから後とか先でではなく、どちらも言われないに越したことがないのは当然なんだけど。



「あ! 名前を訊きたいし、俺の名前も知ってほしい。」

「アホ。」


 思い出した彼女への用件を口にすると、今度は『アホ』が来た。 結局言われるのかよ。



「名前なんて基本的すぎることは置いておくとして、どうせ前回言った『お前は何がしたいのか』も判ってないんだろ?」

「……。」

「やっぱり、か。 で、『狼族と狼とで共通する習性』のほうは考えたのか?」

「あぁ。 あの後すぐ、家で考えた。」

「ほぉぅ? じゃぁ、気付いたことを言ってみろ。」



 『狼族と狼とで共通する習性』、その最たるものは発情に関してだ。

 オスには特定の発情期は無いが、メスは春か秋あるいは両方に発情期が来る。 そのパターンは個体によるらしいし、俺は詳しくは知らない。

 そして発情したメスの出す特有の匂いはオスの発情を誘う。 これも、相性やら色々有って、必ず全てのオスが発情するわけでないらしい。

実際、俺は今までの21年で数回しか感じたことは無い。

 メスもオスも、発情してる期間はつがい───一生モノの相性の相手───を見つけやすい。

つがいを見つけて手に入れた後は、他の異性に惑わされることはなくなる。 それでも互いに不満を感じることは無く添い遂げるということだが、俺だけでなくオンもつがいを見つけてはいないはずだ。



 ……と話したら、また頭をはたかれた。



「アホ! それは事実であって、お前が考えたことじゃないだろうが!」

「あ、そうか。」

「一般説ではなく、お前の場合と彼女に関することについて考えろと言ったに決まってるだろ!」

「そりゃそうか。」

「それに、俺に関する推察は要らねぇからな?! ……あぁ、もう、いい! どうせ彼女にはしばらく会わないだろうから、全部自分に当てはめ直して1から考えろ! ……それにしても、まさか、ここまでとはなぁ。」


 言葉の最後にオンが溜息をく。 今日初めてだな、とは思ったけど、口に出そうものなら「そんなことより宿題について考えろ!」とまた頭を叩かれるので黙っておく。

それでも何かを感じたのか、オンに睨まれたので真面目な表情をしておく。



「ホントに、どうしようもねぇな。 わかったよ! その子らしき羊族の女の子を見掛けたら上手く引き止めたうえで何気なくお前に確認させてやるから! だから、まずは、イイ子で宿題を考えてろ!」

「サンキュ」


 そう言うと、オンは帰って行った。

ホント、口も態度も悪くても、なんだかんだ言って面倒見はいいんだよな。

 今日も伝票を俺の前に置いていくのは忘れないが、な。






 しかし、今夜は考える宿題ことが増えたなぁ。 そんなことを自宅でぼんやりと考える。 自分では『課題』と考えてたけど、オンには『宿題』と子ども扱いだ。 家で自力で考えるんだから宿題で間違いではないのが微妙に悔しい。


 それにしても、そうか、しばらく彼女と会えないかもしれないのか。

その可能性を見落とすなんて───オンには「見落としたんじゃなくて頭が回ってなかっただけだろ」と笑われそうだ───自分で思う以上に思考が乱れてたようだ。

 気付いたからには、きっちり気合を入れ直す!



 ───最初は”もこもこ”の毛で”トテトテ”歩いてたんだよなぁ。 その後は”ふわふわ”になって”トットッ”と軽やかで……。 今はどうなってるのか。───

眠りに入る時、ふと思ったことだった。

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