3月に再び
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もこもこもこ……トテトテトテトテ……もこもこもこ……トテト───ピクッ
「あっ! やっと会え───……え?!」
3月になって、秋から伸ばしてた毛を切りに町に来たら……珍しく正面から狼(族)さんと遭遇。
で、私より先に気付いたっぽい狼(族)さんが声を掛けてきたと思ったら、何故か途中で固まって……。
ピンッと立った耳と揺れてた尻尾がピクリと動いたと思ったら、尻尾が一瞬ブワッと広がって、停止。
こんな反応は初めて見たから驚いちゃったけど、なんか可愛いかも!?
それにしても、あまり表情が動かないタイプみたいなのに目を見開いて驚いてる。
だから、その視線の先を追うと……。
「やっぱり、貴男だったのね。」
と、狼(族)さんの視線の先でもある隣から溜息交じりの声。
声の主は私のお姉ちゃん。 そう、今回は珍しく『一緒に行く』と言って私の隣を歩いてたの。
お姉ちゃんも目的地は私と同じだから、もこもこ。 ただし、毛の色は薄いオレンジ色。
「お姉ちゃん? 知り合いなの?」
思いがけない出来事にビックリしながら訊くと、お姉ちゃんの仕事の関係者だって言うから、さらにビックリ。 世の中は意外に狭い、ってホントなのね。
でも、『やっぱり』って? それに、なんで溜息? 関わってはダメな人だった?
「彼自身は問題無いわよ?! でも、彼に訊きたいことも有るし、カフェにでも入りましょ。」
私の不安を感じ取ったのか、お姉ちゃんが私の頭を軽くポンポンと撫でて微笑んでくれたの。
それを見た狼(族)さんが、またピクリと反応した気がしたけど……気のせいかな?!
その後は耳も尻尾も普通に戻ってて、でも、なんとなく渋い表情でお姉ちゃんの提案に頷いた。
「まずは、改めて自己紹介させてくれ。 俺は、ガイ。 狼族で、警備隊でこの街周辺の警備をしてる。」
「狼族の中でも”黒のガイ”で通じる実力者で、その強さで警備隊の取りまとめ役みたいなこともやってるのよ。 だから、私が班長をしてる福祉班の上司のような立場だからお互いに知ってたの。」
カフェの一室───何故かお姉ちゃんが指定して、狼(族)さんは少し顔を引きつらせてた───で、席に着いて注文して店員さんが退室したら、狼(族)さんが真っ直ぐに私のほうを見て自己紹介してくれた。
そこに、お姉ちゃんが、さっきの質問の追加を含めて説明してくれて……。
うん、やっぱり狼族でした。 耳と尻尾から予想してたとおり、ね。 今は、その耳はピンと立って動いてないけど、尻尾は小刻みに揺れてるみたい。
で、そういえば、お互いに自己紹介してなかった───というか、そんな状況になかった───から、今の今まで名前さえも知らなかったのね。 でも、狼族の知り合いなんてガイさんしか居なかったこともあって、名前を知らないことが気にならなかったの。 それにしても、”黒のガイ”って似合ってるなぁ。
そんなに強くて警備のお仕事してて、お姉ちゃんも信頼してるみたいだし、やっぱり悪い人じゃないんだね、良かったぁ。
「あ……、私はメイシーです。 ミレイお姉ちゃんの実の妹です。 こんにちは?!」
色々考えてボンヤリしてたら、ガイさんとお姉ちゃんの視線を感じたの。
それで我に返ってみれば、私ってば自己紹介してない!
2人とも怒る様子も無く見守っててくれたから、ちゃんと自己紹介。 慌ててるのが最初にちょっと言葉に出ちゃったけどね。 挨拶に迷って語尾が疑問系っぽくなっちゃったけどね。 だって、『初めまして』じゃないし、『おはようございます』も違う気がしたんだもの。
そしたら、お姉ちゃんは『よく出来ました』って感じで私の頭を軽くポンポンと撫でて微笑んでくれて……。 いつもは嬉しいけど、ガイさんの目の前だったから、なんだかすごく恥ずかしかった。
そのガイさんは、微かに口元が緩んでるような、眉間にしわが寄ってるような……。
大きくて真っ黒な狼族のガイさんが怒ると絶対に怖いから、怒ってないみたいなのは安心だけど、不機嫌っぽいのは少し怖い。
「ふふっ。 可愛いでしょ?! 私の最愛の妹なのよ。 だから、そこらの男どもなんて近寄らせる気は無いわよ?」
ガイさんの醸し出す微妙な雰囲気にはお構いなしに、そう言ってお姉ちゃんは私の頭を軽く抱き寄せる。 この愛情表現はいつものことなんだけど、お姉ちゃん、人前では恥ずかしいってば!




