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食べちゃイヤ!  作者: 紫陽 圭
11/17

2月の考え事 (裏)

**********


「1カ月……か。」



 ───いつもの酒場で、冷えた体を温めがてら幼馴染オンと酒を飲んでいたら、ふと言葉が零れた。


「……会えてないんだったな。 俺もその子を見掛けることが無かったからな。」

「あぁ、協力しようとしてくれてたのに、な。 すまない。」

「いや、それは気にしなくていい。」


 俺のぼやくような言葉を拾ってオンが言う。 からかうような響きは無い。


「羊族の村って言っても、名前も知らないんじゃどこの村だか……。」

「そもそも、お互いに名前さえ知らないのに突然会いに行くなんて非常識どころじゃないし、な。」


 今日は静かに話を聞いてるだけかと安心したら、オンの声に苦笑が混じってきたような……。



「で、会いたいのはともかくとして、宿題は解けたのか?」

「正直言って、3月と”あのセリフ”、4月と”あの行動”、7月に少し収まってた衝動、これらと種族の関係は未だに判らん。 俺らしくもない混乱っぷりの原因は、もっと彼女と話したりできれば判る気がするんだが───」

「会うたびに混乱を悪化させてきたんだろうが、このトーヘンボク!」

「ぐっ……。」


 そう、宿題の答えがほとんど判ってない、これも溜息を誘う一因だ。

オンが無駄なことを言うわけがないと知っているからこそ真剣に考えたんだが……。

考え中にふと彼女のことを思い出しては思考が中断するし、その理由も判らないから対策も採れず、どうしようもないから自分に喝を入れ直して、を繰り返すこともあって、どうにも考えが前に進まない。



「会いたいのは否定しないんだな?!」

「ん?! あぁ。」

「で、会ってどうしたいんだ? これも宿題だったよな?!」

「会いたい。 話したい。 彼女を知りたい。 そして……うーん?!」

「あぁ、そうかよ、まだソコか。 じゃぁ、彼女に何を求めてる? 」

「これからも会ってほしい。 俺と話してほしい。 俺を知ってほしい。」

「ホントにソレだけか? 独り占めしたくはないか?」

「俺だけ……か、それは良いな。」


 酔ってはいないが、考えにふけっているところに聞こえてくる質問に深く考えることも無く答える。


「じゃぁ、キスしたいとか、抱きしめたいとか、それ以上は?」

「……。 っっ?!」


 一瞬、オンの言葉が理解できなかったような錯覚におちいった。 あくまでも錯覚で、理解した瞬間に思考の泡が一気にすべて吹き飛ぶ。

同時に、うっかり頭の中で想像して、カウンターテーブルに突っ伏す。 衝撃に言葉も出ない。 真っ赤になってる気がして顔を上げられない。 顔は伏せて誤魔化しても同じく赤くなってるだろう耳までは隠せない……くそっ。


「やっと自覚したか、トーヘンボク。」

「……。 確かに、やっと、なんだろうな。」

「まったくだ、アホ。 まぁ、もしかしなくても”初めての想い”だろうからなぁ。」

「悪いか。」

「悪くない、むしろ、その方がいい。 ところで、お前、アレの経験は?」

「ぶっ。」


 コレが初恋かと照れる間も無くオンがぶつけてきた質問に、噴出するのをなんとか抑える。


「だから言っただろ? 3月・4月の衝動って。」

「そういうことか。 ……2年以上前だな。」

「じゃぁ、オンナ関係の整理は要らないな。 しかし、たぶん、大変だぞ?」

「ん?」

「彼女自身が初心うぶそうなのもだけど、きっとアイツが黙ってないからな。」

「アイツ? 彼女に相手が居るのか? それより、彼女のこと何か判ったのか?」

「アイツってのは、彼女の姉。 で、その姉は俺たちの知り合い。 彼女の身元が予想通りなら、だけどな。」

「男じゃないのか。 その言い方からすると、俺もその”アイツ”を知ってるんだよな?! 知り合いの妹?! 誰の?!」

「見た目もタイプもまったく違うからなぁ。 でも、アイツの話に彼女が出てきたことは有るぞ?!」


 オンから思わぬ情報が出てきて驚くも、妹について話していたことが有るという”アイツ”の心当たりが浮かばない。

『大変』とか『黙ってない』ってことは、その姉は彼女をよほど大切にしてるんだろう。 そんなにも妹思いの姉……?!



「なにはともあれ、自覚は出来たようだし?! 会えたらどうするか、とか考えとけよ?! 暴走するとアイツから制裁喰らうから気を付けろよ?!」


 煽ってんだか忠告してるんだかわからないことを言うと、オンは帰って行った。






 家で心身ともにスッキリさせると、大きく息をく。

 1つの事実から、すべての宿題の答えが出た。 ”初めての想い”……。 なんか、照れくさいやら情けないやら、なんとも言えない感覚に悶絶しそうだ。

 しかし、とっくに気付いてたっぽいオンにしてみれば、相当じれったかっただろうな。 それでも俺自身に考えさせるところは相変わらずの面倒見の良さだ。

そんなオンも、春に彼女と会った俺が無自覚に暴走する可能性を考えて、さすがに今日は色々誘導してでも自覚させようとした……と。 確かに、無自覚のままだったら何をやらかしたか自分でも判らん。


 ───俺の”つがい”か……。

今度会うときは、”もこもこ”か”ふわふわ”なんだろうな。



 オンから彼女の姉の名前を訊きだしておけばよかった、と俺が気付いたのは翌朝だった。

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